Live Report ライブレポート

ブエノスアイレス2006 #1

初めの第一歩 〜コンフィテリア・イデアール編〜

成田でトリオ・ロス・ファンダンゴス+こーちゃん、えじいの5人はケンジ&リリアナと待ち合わせ。前夜は殆ど全員徹夜の一行。リリさんなんか「もう行くのやだ」とか言ってたらしい。だって前夜オリジェーロで後片付け大変だったんだもんそりゃそうだ。そのリリさんを奮起させたのがケンジさんの電話口でのコーチャン真似だったとか。こーちゃんええ仕事してまっせ。


成田で食べた食堂のソバはまずかった。ええいせめてそじ坊にしときゃよかった。「もう東京がわかった」by エ爺。コンチネンタル航空の機内食はまずかった。「もうアメリカがわかった」by エ爺。ヒューストンで飲んだコーラはまずかった。「もう完全にアメリカがわかった」。by エ爺。


ブエノスアイレス・エセイサ空港に着く。思わずぐっと手を握り合う3人。


ところが荷物が出てこない。ストだって。みんなイライラしてる中、踊り始める2人。拍手もらったりなんかしちゃったりして。

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ホテルは滞在型の「サンテルモ・コロニアル」。女主人のイネスは社会学の教授で大学で教えている。石畳があちこちに残ってるサンテルモ地区。ええ雰囲気ですこの界隈。歩く時はでも、下を見て。犬の糞が随所に。一説によるとタンゴの、足で地面に輪をかくような足さばきは、踏んづけた犬の糞を地面にこすりつけてる仕草が元になってるとか、なってないとか(byケン爺)。


さて、翌日の夜、早速、最初に出演するミロンガ「コンフィテリア・イデアール」を見学。うわ。なんだかゴージャス。天井は高いし。そしてカウンターの前にはステージが。やがて始まる生演奏は、ベテランのバンドネオン×2、ヴァイオリン、ピアノ、ベースにチェロという6人のオルケスタに歌手がひとり。チェロのひとが一番若い。彼だけ全曲暗譜。なぜだか彼らの演奏を見ていてドキドキしてしまう。おおおお、ここで明日演奏するのかああああ、てな感じでしょうか。

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んで、その翌日。まずはスタジオで軽くリハーサル。で、いよいよ夜、くだんの「コンフィテリア・イデアール」へ。出番は25時。ミロンガが始まるのが午前0時だからねえ。でも23時からタンゴのクラスがあるので、22時から23時の間しかサウンドチェックの枠はない。ところがPA関係諸事情あって、結局一音も出せぬままサンテルモに一旦引き上げ。エンジニア・エ爺は残って奮闘してくれることに。すまんねえ。で、ひょっとして、と一縷の望みをもって少し早く会場に戻るも、やっぱり諸事情あってアキマヘン。正PAゴンサロ到着。エ爺は彼の横についてアドバイスをすることに。


いよいよ、ミロンガ開始。サウンドチェックがマッタクできぬまま、前夜にベテランオルケスタの乗っていた舞台にあがる。この舞台がまたぐらんぐらん揺らぐ揺らぐ。その大揺れの舞台の後ろに灯体が幾つもぶら下がった照明スタンドが立てられたりして、コワイ。


1曲目はガショシエゴと決めていた。「頭からガツンとぶちかまさないと、ブエノスアイレスのお客さんはすぐに離れて行っちゃうからね」とここ数年、ケンジさんから言われていたしね。よっしゃやったるで。


せえのっ!と弾きだした途端…「ゾヴァッゾヴァッゾヴァ!」ううううわああああああなんちゅう音やあああああ。ピアノの音量が余りにも上がってて、出音が巨大、完全に割れてる。破壊的ノイズミュージック!3人ステージの上で顔見合わせて思わず吹き出す。これがウワサのブエノスアイレスかあ!


「あの街では何一つ思ったとおりにならないんですっ。音だってひどいっ。ぼくなんて演奏中にとんでもないノイズがPAから発生して演奏にならなかったことがありました。ピーーーーッガガガガァァァ、ブシュルブシュルブシュルギャーーーーーゴゴゴゴゾガアアアアー(以下略)」と某小松亮太氏にかねてからきいていたのでオカシクテしかたがなかったのでした。ハイ。


でもすぐにそのノイズサウンドもおさまり(エ爺&ゴンサロありがとう)、演奏は熱を帯びる。フロアには誰も出てこない。しかし無関心なのではない。みんなが我々の演奏に食い入るように集中しているのがわかる。とにかくこの一曲に力を込めて、演奏する。2曲目なんて、ないかもしれないんだ。


プグリエーセスタイルで演奏するこの曲、最後の部分でリタルダンドに入ったあたりから拍手が湧きあがった!おおお、やっぱりそこで拍手するんだああああ!これだよこれ!そして演奏が終わった途端、まるで台風の突風がぶつかってきたような拍手喝さい。「ブラボーッ」あちこちから叫びがあがる。アルゼンチンの、ブエノスアイレスの、タンゴ好きたちの集まるミロンガで、ファンダンゴスの演奏が受け入れられた瞬間。この拍手喝采を忘れることは、ないだろう。

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しかし、そのときものすごく嬉しい反面アタクシ谷本の緊張はピークに。スペイン語でMC入れにゃあならんのですよ。教えてもらったのをメモに書いて、覚えて言うことになってるんだけどああた。いえまへんで、なかなか。聞いてるのはなんちうても生まれてからずっとスペイン語で暮らしてる方々ですよ。こっちはああた何がなにやらでありますればね。「ブブブ、ブエナスノーチェス…ソモス…トリオ・ロス・ファンダンゴス。ビニモス…ええと、次なんやったっけ…ああ、デル…コンプレタメンテ…オートラド…え?違う?オトラード?オトラードね?オトラード・デル…ムウウウウンド…デハポーン」(「こんばんは。トリオ・ロス・ファンダンゴスです。地球の真裏側の日本から来ました」)。途中みんな優しい笑顔で見守ってくれてて、言い終わったらこれまた大拍手。お恥ずかしい。でもありがたい。


2曲目、3曲目…次第に少しずつフロアにみんな出てきて踊り始める。それでも多くの人たちが我々の演奏を食い入るように見詰め続けている。ふと目を上手舞台下に向けると最前列のリリさんと目があった。それはまるで深い湖のような目。思いが涙と共にいっぱい湛えられて、溢れそうな、目。ぼくらがブエノスアイレスのミロンガで演奏して、沢山の人たちに拍手をしてもらっているそのことを、こんなにも喜んでくれて。ほんとうに、うれしかった。リリさん、ケンジさん、ありがとう。ぼくらブエノスアイレスに、来たんだね。一緒にここに居るんだね。


さて、前半用意していたのは9曲。殆ど喋らずにやれば30分弱でできる予定だった。ところが5曲目が終わった所でミロンガの主催者はいきなり「コルティーナ」(ミロンガで、同じ系統の曲が3、4曲流れた後、パートナーを替えたりするために短く流される全くタンゴとは別のジャンルのBGM)をかけた。有無を言わさず、ここで一旦ストップということだ。


演奏打ち切りか?実際に演奏がイマイチだと、主催者が演奏を打ち切らせることがあるという。また、フロアで踊っている人々が演奏を気に入らなければ明らかにぬるく冷めた拍手しかしなかったりする。ひどい場合にはブーイングが起きたり、帰ってしまったり、ということさえもあるのだという。


主催者はどうやらフロアに余り人が出ていないのが気になったらしい。演奏がどれほど受け入れられても、踊る人が少なければそれはミロンガとしては好ましくないというわけだ。


しかし間もなく、我々のブエノスアイレスツアーの制作をしてくれたミホさんを通じて「途中で切って悪かった。後半は予定通りやってくれ」という連絡がきた。どうやらフロアの雰囲気は非常にいい、後半はきっとみんな踊るだろう、という判断をしたのだろう。


さて、後半の1曲目2曲目はケンジ&リリアナのデモンストレーション付きの演奏を予定していた。しかし、曲をどうするかはフロアの雰囲気を見て決める、とケンジさんは話していた。「『ブエノスアイレスの夏』と『ミロンガ・トゥリステ』で行く」。お客さんが非常に集中して聴いていると見ての選曲。普通、ミロンガでのデモではなかなかできない選曲だ。ファンダンゴスの演奏が、ミロンガの空気を作り、そしてその流れの中でケンジ&リリアナはこの深く静かな表現が可能だ、と判断したわけだ。果たして、会場のみんなが息を呑んで二人の深い表現に引き込まれていく。ケンジさんのこの空気を読む感覚は、さすが、というしかない。


そんなケン爺をもってしても、株相場の空気を読むのはどうも難しいようですが…。おっとこれは別のハナシ。おほほ。


ミロンゲーロたちは2人のダンスを食い入るようにみている。そして勘所で拍手声援が湧き上がる。ステージ上で演奏しながら、今度はこっちが涙ぐむ番。デモを終え、大きな拍手喝采を受けるケンジ&リリアナ。どうだ!この2人は最高だろう?誇らしくて胸を張りたくなる。


そしてミロンガ再開。みんながどんどんフロアで踊り始めた。気づいたのは、ブエノスアイレスのミロンガでは踊っている人たちがものすごく音楽を集中して聴きながら踊っているということ。我々がリズムを揺らしたり、ブレイクを入れたり、遅くしたり速くしたりしても、即座にフロア全体が対応するのだ。日本ではこちらがどれだけリズムを揺らそうが、フロア全体がそれについてくるということはまずない。むしろ大半の人たちが一定のパターンで演奏とはむしろ無関係に踊り続けているのが普通だ。しかしブエノスアイレスではそうではなかった。こちらの演奏と一緒に、みんなが動く。これは面白かった。ミロンガでの演奏が単なるBGMではないのだ。ライブ感があって、みんなとグルーヴを共有しているんだということがよくわかって楽しいのだ。


かつて日本のあるミロンガで演奏したとき、「あなたたちの演奏はいささか揺れすぎる。ミロンガで演奏する時はリズムを一定に保たないと踊りにくい」と言われたことがある。でもぼくらはタンゴの持つダイナミズムを表現したいと願い、我々自身が心も身体も揺れるような音楽を志向してきた。その結果、どうしても「揺れ」が生まれるのだ。そして、ブエノスアイレスでは、これがフロアで踊っているみんなを大いに楽しませたらしい。うれしかった。


そしていよいよ最後の曲が終わった。同時にまたもや大拍手喝采、そして「オートラ!オートラ!」(もう一度!アンコール!)。我々の演奏をとっても気に入ってくれたらしい年配の男性が、我々にではなく主催者の方に向かって「こいつらにアンコールをさせてくれ、クンパルシータをさせてくれ!」とステージ下まで駆け寄ってきて懇願してたりして。ありがたいことです。


アンコールの演奏をやり散らかしてステージを降りると、大勢のタンゲーロ、ミロンゲーロたちが次々にやってきて手を握ってくれた。そして抱きしめてくれた。本来ならば1曲でも多く踊りたいと思っているミロンゲーロたちがわざわざ演奏者の所にやってきてくれてそのように気持ちを表してくれることは、そんなにしょっちゅうあることではないんだよ、とケンジ&リリアナが嬉しそうに教えてくれた。


かくしてトリオ・ロス・ファンダンゴスのブエノスアイレス・ミロンガデビューは果たされたのでした。さあて、次はいよいよ、ブエノスアイレスでも最も有名なミロンガのひとつ「サロン・カニング」だ!。"Siiiiii !"

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