ブエノスアイレス2006 #3
ビエン・プレンタの夜
さて、3つ目のミロンガライブの会場は「ビエン・プレンタ」。本番は6/17。一週間前のミロンガに下見にでかける。ここはなんと世界三大劇場のひとつにも数えられるコロン劇場ができるまで、ブエノスアイレスのオペラハウスとして多くの人々に愛されていた劇場跡.。ジツに由緒正しい。
そういうわけでここには立派なステージがある。そしてその奥にステージ面よりも更に高くしつらえられたバンド用ステージが常設されている。そしてステージ全体が客席に向かって傾いている。おっとっと、つんのめりそう。ダンサーの足が下で座っていても見えるように、かもしれないがそうでないかもしれない。ミロンガの合間にはショウなんかもあって。
ステージ下手にはグランドピアノが鎮座。ところが…、なんとそれは外側だけ。中身はカラッポで、鍵盤のところにデジタルピアノが押し込んである!ひゃーすげー。こんなの初めて。ケイトさん嬉しそうに写真をとりまくる。
ブエノスアイレスには色んなミロンガがあって、それぞれに雰囲気や空気が違う。会場、集まる人たち、主催者、かかる音楽…それぞれに違いがあり、面白いのだ。ビエン・プレンタはぐっと落ち着いた雰囲気。
さて、この日はここに来るまでにカフェ・トルトーニでのショウを見に行く。トリオ・ロス・ファンダンゴスにとってはお馴染みのエドゥアルド・「師匠」マラグァルネラの息子のディエゴさんがヴァイオリンを弾いてた。バンドネオン、バイオリン、ピアノ、エレキベース(!)、歌手が男女ひとりずつ、そしてダンサーが一組。ライブチャージが30ペソ。演奏は洒脱で手慣れた感じ。いよっ!タンゴ芸者!歌手たちのデュオが楽しかったなあ。芸人ですわほんま。
そういえば滞在中、他にもライブやコンサートに行きました。たとえば6/15には、サロン・カニングのミロンガの主催者であるオマールさんが仕掛けるクラブ系タンゴイベントに。我々が着いて次の日に軽くリハーサルをやったあのスタジオの2階が会場。開場時間までまずは1階で若いタンゴ楽団が前座演奏。そしてやがて2階へ案内され、本編開始。ギターと歌のトリオによるライブ(このトリオで歌をうたっていたのはナント、ティエンポで友だちになったあのカルロスのCDで歌ってた女性だった!いや世界は狭い。
そういえばイデアールのときにお会いした日本人の女性がおもしろい事を教えてくれたっけ。彼女が別のミロンガで踊っていたらそこで出会った知り合いに「こんなところで踊ってる場合じゃないよ、今夜はイデアールに行け、トリオ・ロス・ファンダンゴスっていうのが日本から来てる。こいつらはハートで、魂で演奏するヤツラなんだ。絶対に聴くべきだ!」って言われて来た、だって。誰?その人?ってきいたらこれまた「カルロスって言うんですけど…」だって。うわはは、ありがたいこっちゃカルロス!ティエンポにタンゴダンス教えにきていたクセに我々と一緒にやるときは決して踊らずとにかく歌いたがったおもしろいヤツ。ありがたいことです。でも本人とは結局会えず。会いたかったナア。
そういえばフロリダ通り散策にでかけたときには、ストリートタンゴやってるダンサーたちに遭遇した。それは随分前にマラグァルネラ楽団と一緒に来日した時に行橋で会ったホセ・カルロスだったし(彼は我々のこと、覚えてた!)、一緒に踊ってたのはなんとこれまたティエンポ講師として来ていたジョアンナだった。地球の裏側でまた出会って、おーひさしぶり!なんて挨拶してる。不思議な感じ。そうそう、ここでもケンジ&リリアナはバンバン踊ったのでした。オオウケ)。タンゴでまっすぐつながる、福岡とブエノスアイレス。
閑話休題。オマールさん主催の深夜のタンゴイベント。モダンダンス、コンテンポラリーダンスとタンゴなどをあわせたようなダンスパフォーマンスを経て、いよいよトリの「エル・バゴン」登場。アコーディオン、ヴァイオリン、エレキギター、エレキベース、パーカッションの5人組。これがプログレやジャズの要素も取り入れたタンゴの演奏を繰り広げる。
ヴァイオリンはどこかで見たような、と思ったらフェルナンデス・フィエロのヴィオリニスタのひとりだった。暗い店の中に蝋燭の火が明滅し、色んなものを呑み込みまぜこぜにしたような音楽がその空気をさらにねっとりとした肌合いにしていく。突然主催のオマールさんがケンジ&リリアナを呼び出す。そして即興のセッションを提案。エル・バゴンの「リベルタンゴ」と、ケンジ&リリアナ。当たり前のように踊り出す2人。ここでも、彼らはこの場に満ち漂う空気を身に纏い、踊り、やがてその空気を味方につけていく。
タンゴは古い音楽ではない。今、生きて、息づいて、蠢き、身をくねらせ、飛びはね、疾走している。そう思わせられるひととき。
翌6/16にはコロン劇場へ。これああた、ビエン・プレンタと比べ物になりませんがな。ああ、びっくりした。室内管弦楽団が合唱団と繰り広げるサリエリとモーツァルトの夕べ。ああもう、すごいやこのホール。人間は芸術を楽しむためにこんなもん作っちゃうんだなあ。バルコニー席が実に6階も。最上階は天井桟敷、立ち見席。天井はドームになっていて見上げると吸い込まれそうになる。
写真撮ってて「ノー、カバジェーロ、ノー」と係の人に怒られちった。入場料は150ペソ。こいつはやはり高い。それでも日本よりは安いかな。実に気持ちのいい、弦楽器中心の室内楽の響き。それに加わる人間の声のハーモニー。それが上から降ってくる。ああもうたまらん。ぐぅ。極上の眠りでした。贅沢でしょ。他のみんなはみんな起きてちゃんと聴いてたって。いやあ、アタシの聴きかたが一番よ。わはは。それにしてもコロン劇場のカフェのケーキ類…。あれはいかん。でかすぎる、重すぎる、固すぎる、甘すぎる。あんなもん食ってたら身体にいいわけないよわかっちゃいるけどやめられないのかなあブエノスアイレスのシトたちには。参りました。
そして翌日6/17がビエンプレンタ本番。ステージは通常上手からバイオリン、中央にバンドネオン、そして下手にピアノという配置になっているらしい。でもファンダンゴスのいつもの配置に変えてもらう。アコーディオンは右手の鍵盤の横の部分から音が出る仕組みになっているので、向かって左側に立つと音がよく聞こえるのでありますね。そんなわけで。
今回の音響エンジニアはイデアール、カニングでエ爺と名コンビになったゴンサロではない。ビエンプレンタ付きの音響担当者。この並びに変えることを何となく面倒くさがってる空気。でもお願いして、きいてもらう。
ミロンガでの演奏はすでに3回目。MCまで緊張するアタクシもいつもどおり。わはは。ただ、ビエンプレンタでのケンジ&リリアナのデモは、これまでと違っていた。ケンジさんが「今日は一曲目でミロンガ・トゥリステをやるよ」という。「夏は?」ときくと「しない。そのかわり、フェリシアをやる」という。彼の「読み」があるのだろう。我々としてもフェリシアが一緒にできるのはうれしい。了解。やりまっせ。
ステージから遠くフロアで踊る2人を見ながら。深く沈み込むミロンガ・トゥリステ。そこから一転して華やかに明るく笑いを誘いながらのフェリシア。お客さんはこの振幅の広さ、落差のダイナミズムに大喜び。
2部の演奏が全て終了すると、ありがたいことにまたもや大拍手喝さい「オートラ!オートラ!」アンコールはカニングでオオウケした台風。フロアでみんな楽しそうにガシガシ踊る。そして途中からステージ上にケンジ&リリアナも登場。うほーい。またいいタイミングでホールのスタッフがスモークを焚いてくれる。いや焚いてくれるというよりも噴射!真横からブシュー!わはは、ええタイミングですわ。曲知ってるからこそ、の。動画がミホさんのブログに早々とアップされておりました。こちら。「無修正?!”TLF for EXPORT”」の項”TLF EN SABOR”をクリック!
そんなこんなで、”Peron 2543″(ペロン・ドスミル・キニエントス・クアレンタイトレス!)にある「ビエン・プレンタ」の夜。