関東ツアー2008

浅草、最高

10/10、いよいよスタート関東ツアー2008。浅草寺の一角ではベテランの芸人さんたちが漫才や声態模写やったりしてて。そぞろ歩きながら芋羊羹やら煎餅食べたり。そうこうしていると向こうからリリアナさんが歩いてきた!「ここで会うと思ってたのよ」だって。そしていよいよ演芸の殿堂「木馬亭」へ。舞台の上、客席の横の壁にはずらりと赤提灯が並んでいる。舞台のうしろは大きなふすま。舞台は文字通り、「板」。ぬくもりや厚み、そして重みのある、その感触。はだしでそれを楽しみながら、リハ。ここでこれまで数え切れないほどの芸人さんたちがお客さんたちを楽しませてきたんだよなあ。そんな演芸場でライブができるなんてもう、最高。ケンジさんが「あんたら似合うなあその舞台!」上の芝居小屋木馬館の公演の音楽もはっきりと聞こえてくる。浅草に包まれてる感じ。
さてこの日の仕切りは広沢リマ哲。彼がスペシャルゲストとして呼んでいたのが浅草芸人プッチャリンさん。ライブ始まる前から客いじりで客席の温度をいい感じに上げる。
そしていよいよ開演。ステージ上にはわれわれとケンジ&リリアナがスタンバイ。演奏開始。幕が開く。客席から拍手が沸きあがる。わはは、最高。
プッチャリンさんはライブ中も瞬間的にステージにからんでは引き上げる。この出方、引き方がすばらしかった。勉強になりました、ほんと。
幕間には広沢リマ哲のサックス。やっぱりすばらしい。シンプルだけれど、歌がある。歌はいいなあ、と思わせられる。
初めてご一緒する児玉康子さんとの2曲。われわれは緩急おりまぜ、押したり引いたり、音の出し入れをその場で行いながら。
大盛り上がりのうちに時間ぴったりに終演。時間オ-バーなんだけれど…とリマちゃんはステージでみんなに言うのだけれどみんなアンコールアンコール!って叫んでる。ありがたいこと。やらせていただきました。
終演後は近くの飲み屋さんで飲んでるよ!おいで!と声をかけてくださったY先生一行とちょっとだけ合流。肝ポン。チヂミ。キムチ。生ビール。はあ、楽しい。
そして主打ち上げ会場なってるはうすへ。しあわせな、初日でした。みなさんありがとう。リマちゃんありがとう。浅草、最高。


江古田BUDDY、抱腹絶倒

さてツアー二日目。江古田BUDDY。3年前にもやったところで、今回も九州で毎年5月にやってる「タンゴの節句」の形でお客さんに楽しんでもらうことに。客席の真ん中にダンススペースが設けられ、お客さんはそれを取り巻く形で観る。お、小松亮太サンもご夫妻で、かわいい娘さんを連れて来てくれた!
次々に衣装を変えて出てくるケンジ&リリアナ。ダンスの表情、そして世界が毎回違っていて、観る者を飽きさせない。さらにこの日スタッフとして入ってくれたよっしーがびしっとスーツでキメタのを見たケンジさんが、彼を急遽起用することに。これがミゴトに当たり、お客さん文字通り抱腹絶倒。こっちから見てても、リリアナさんの表情、ダンス、演技、最高だった。
笑ったり、しんみりしたり、ぐぐっと力が入ったり、ふわっとゆるんだり、悔しかったり悲しかったり、元気が出たり。タンゴはそういうのをすべて持っている音楽。だからお客さんには何よりもそれらを存分に味わってもらいたいと思う。最後の曲では、フロアにみんなが出てきて踊った。とっても幸せなひとときだった。
アンコールを経て終演。お客さんをお見送りする。帰っていくお客さんが口々に「すてきだった」「また来てね」「笑いすぎて涙が出た」など言葉をかけてくださる。みんな笑顔がすっきりしている。音楽とともに、生きてることを丸ごと楽しんで、みんなそんな顔になるのかもしれない。タンゴやっててよかったなあと思う瞬間。みなさんこちらこそ、本当にありがとうございました。
それにしても、前日の浅草といい、この日のBUDDYといい、ぼくらのことを応援してくれている東京の仲間たちに本当に支えられている。こういう素敵な人たちとの出会いに恵まれて、幸せの一言。本当に本当に、ありがとう。
さて終演後は今回お客さんとしてもライブを多いに楽しんでくださっていたマスターの店吉祥寺「ひじり亭」で打ち上げ。出てくるものがすべておいしいのなんの。トマトソースの冷製パスタとワインの合うこと合うこと。その後ファンダンゴス女子部はホテルに戻る。リリさんも帰宅。しかしワタクシどもさらに二次会、三次会。大笑いしてるうちに夜が更ける。へろへろになって泊めてもらっているケンジさん宅に到着、パタン。


銀座+六本木

10/13、ツアー三日目。まずは銀座のプランタンのすぐ近くの”MY HUMBLE HOUSE”で開かれてるアフタヌーンミロンガ。開始が昼の12時半、演奏が2時と3時半。ちょうど全く同時に地球の裏側ブエノスアイレスのあちこちでミロンガが開催されている時間だねえ、なんて話してる開演前。真昼なんだけれど店の中はもういい感じの夜の雰囲気。ライブはみんなすごく喜んでくれて一曲終わるごとにこっちにちゃんと向き直って嬉しそうな笑顔でどどどと拍手してくれる。あぁサロンカニング思い出しました。こういうのやっぱり嬉しいもんです。ミロンガ、やっぱり好きだなあ。自分たちの音が目の前でみんなの動きになっていく。銀座のみなさん、こっちの呼吸をちゃんと感じてくれてるのがわかる。こういうのがミロンガライブのいいところ。CDで踊ってるのと決定的に違うところ。
後半の頭でケンジ&リリアナのデモ。いきなりの台風でみんなのけぞり大笑い、目をキラキラさせてる。あはは、子どもの顔だ。そして一転、渋くどっしりとガジョシエゴ、底なしに深まるオブリビオン。今度はみんなもため息のような拍手。
そして再びわれわれの演奏でみなさん楽しそうに踊ってくれて最後はほんとに大きな大きな拍手。ありがたいありがたい。終演後は久しぶりに少し踊ったりして。ああヘタクソ。
さて次のミロンガまでの間にナイルのカレーやらランブルのコーヒーやらで食の旅情を楽しんでから今回我々のツアーを全面的にサポートしてくれてる冬ぽんのスタジオ「ミブリン」へ。間もなくミロンガのお客さんが三々五々集まってくるのだけど、われわれどろんどろんに疲れた顔で座り込んでいて、さっきまで銀座で挨拶交わしてた人も気づかない。ファンダンゴスだよ、と冬ぽんに言われてみんな「あっ!」。
よーし、と気合い入れ直して出発、六本木へ。本日2か所目の「ゼロアワー」のミロンガへ、いざ。ここは福岡のティエンポで一緒にやったことのあるファン・ギーダのやってるところ。やあやあ久しぶり、と旧交を温めるまもなくサウンドチェック、本番。
ケンジ&リリアナのデモ。台風はここ数日間で恐ろしく面白いことになってしまっていて目が離せない。リリアナさんの顔芸の磨かれ方ったら、あぁた。ゼロのお客さんもスタッフもみんなやっぱりはじめにのけぞってやがて子どものキラキラ顔に。この人たちはほんとに人を幸せにさせるよなあ。
さて、2曲終わって2人がハケて、われわれが次の曲に行っても誰も立ち上がって踊らない。これを見て2人は戻ってきてさらに踊り始める。みんな「待ってました!」と大喝采。すると3曲目が終わったとたんケンジさんはこっちに向いて「フェリシア!」鼻の穴広がってるし。目がいくぞ、と獲物を狙う鷹のような目になってるし。勿論予定にない。へいようがす、やりまっせ!そしてバンバンやる。ここいらが我々の強いとこさー譜面どうせないしさー。まーうけたうけた。そしてついに彼らが去った後、さらに熱くぎんぎんに。いわつの音、PAよりデカいし。うひゃひゃ。楽しかったなあ。
引き上げて野沢ホテルでうどんと餃子ご馳走になって。これがフェリシアのご褒美だー。わはは。


与野+与野

さて10/13、ツアーは三日目。今日も今日とてタンゴタンゴ!埼玉は与野のギャラリー・シャインにて。まずは昼のタンゴライブ。2ステージ。まずは1ステージ目。抑え目に行く。必要にして十分なMCを挟みながらテンポよく。お客さんも様子見てる感じなので無理をせず。
歌の児玉康子さんの伴奏も、浅草木馬亭に続いてやりました!
「歌伴」はある意味、一緒に歌うこと。われわれも演奏で一緒に歌うようなつもりで。いやー楽しかった!児玉さんほんとにありがとうございました!
しかし1部終わってふと、あれ?早すぎた?と気づく。今回受け入れてくださった亀山さんに訊くと、そうですね、40分たっぷりやっていただければ、後半はもっと喋っていただいて、とのこと。「もっと喋って」?ほんまにええの?やりまっせ、リミッター外しまっせ、というわけで後半2部は全開で。まずは牛でございます追加入りました~。そしてさらに首の差追加。会場大合唱。谷本版日本語訳詩で。わはは!
終演後CD売れる売れる。何人もが「首の差で」は入ってないんですか?と訊いてくる。すみません、次のに入れる予定です。やっぱり合唱入りで入れるしかないかこりゃ。ぷぷぷ。
終演午後3時から次のミロンガ開始4時まで1時間。向かいのイタリアンに。わ、安い。エネルギー源全員でチャージ!締めはジェラート。ベルギーチョコアイス。チョコ談義しばし。チョコは死んだ兵士を生き返らせる、とか、うにとチョコレートならどっちが生き返るかとか。なんやねんそれ。
そしていよいよミロンガ突入。おお、沢山の人が。盛り上がってるなあ埼玉。そしてここからがスゴカッタ。何がって2部のデモ。初めにケンリリ、そしてトーマ&ユーナが2曲、そしてもう一度ケンリリで一曲。の予定。我々のCDの演奏をすでに聴いて準備してくれていたトーマ&ユーナ、ピシっと決めてくる。おほほ。楽しいなあ。そしてケンリリ再び。現れて笑顔で客席に近づくリリアナ。ものすごい拍手。パジャドーラ弾きながらケンジ&リリアナの楽しいことこの上ないダンスを見ながら演奏しているうちに、なぜだか突然涙がこみ上げた。こんな人たちと一緒に出来てることの幸せ。いやこの人たちの人を幸せにする力に、揺さぶられて。演奏、さらにターボがかかる。最高の、永遠の、一瞬。
踊り終わって拍手大喝采の中、トーマ&ユーナを呼び込む。万雷の拍手鳴り止まぬフロアでおじぎをしている2組。ふと、このまま演奏を始めたらきっと2組で踊る違いない、と思い、段取りではダンスの予定のない次の曲をそのまま開始。案の定、2組が同時に踊りだす。そうですそうでなくちゃ。さらに拍手喝采、ものすごい音圧で鳴り止まず。ケンジ&リリアナが一旦ハケたのに戻ってきて、出ました、「フェリシア!」勿論予定になし。リリアナさんぜぇぜぇなのに、やっぱりギンギンに、行く。すばらしい敬服頭が下がりますその芸人魂。
すると負けじとトーマ&ユーナも再度登場。まるでデモ合戦の様相。一瞬の協議の末、曲を決めてGO!思わぬ展開にお客さん大喜び。そりゃそうですよ、お得この上なし。
そして再び我々の演奏でミロンガ再開。どんどんヒートアップする演奏でたたみかける。そして終演。すんごい拍手、アンコール、オートラ!よっしゃとさらに輪をかけた演奏で応える。そしてついについに終演。与野最高。うれしいうれしいひと時でした!
さて打ち上げは中野、「香港亭」。ああもう、最高。惜しむらくは、杏仁豆腐、寸前に売り切れ。しょぼぼぼーーーん。


最終日、四ツ谷

関東ツアー最終日の10/14、まず泊めてもらっていたケンジ邸近くの公園に散歩に連れて行ってもらう。広大な敷地の豊かな緑の中、いい空気を吸いながらゆっくり歩く。ああ、こういうのを本当に英気を養うというのだよなあ。ありがたい。
さて、夕方、四ツ谷地域交流センターへ。今回の関東ツアー最終ライブは、すでに50年もの歴史があると言われるタンゴ愛好会「すいよう会」主催のミロンガ。PAを冬ぽんが提供してくれて大助かり。
前日もそうだったけれど、ここでも長年タンゴを愛し踊ってきたのだろう、と思われる人たちの姿があって。静かで落ち着いた、しかし「どれ、君たちは一体どんな演奏するのか、見せてごらん」というピンと張りつめた空気。その中で、その中へ、われわれのタンゴを放つ。一瞬の沈黙のような間の後、なんだかみんなが「うん」と頷いたように動き出す。なにかが了解され、文字通り「解ける」瞬間。そしてみんなの動きの「感じ」に注意を向けながら演奏。このあたりは何と言うか、「感じ」としか言えないもの。それでもやっぱり結局揺らしたりするんです、緩急すごくつけたりして、わはは。でもそれは決して奇をてらったりしているわけじゃ、ない。必然なのだ。だから前半終わったときに「すごく踊りやすいです!」なんて言ってくださる方がおられると途端に「ですかですか?でへへー。」単純です我々。
ここの皆さんはプログラムにも非常に興味を持っている。元々「すいよう会」がタンゴのレコード鑑賞会などから出発している、そんな歴史とも関係があるのかもしれない。踊っている人の中には曲間に、プログラムを取り出して曲を確認している人もいる。「曲が何であろうが関係ない、ただ踊れればそれでいいんだ」とは考えない人々の姿に、なるほどなあ。
後半頭はケンジ&リリアナのデモ。ここでも度肝抜く台風炸裂。そしてプログラムからは外れたピアソラ連発。タンゴの自由さが風のようにフロアに吹き込まれていく。
アンコール含めて4曲のデモの後、ミロンガ再開。前半に増して柔らかさと強度がぐぐぐと加わっていく感じ。拍手も次第に大きくなる。ツアー最後の1曲、アンコールは今回のツアーで初めてケンジ&リリアナのダンスなしのフェリシア。ありがとう、ケンジ&リリアナ。ありがとう応援し支えてくれたみんな。ありがとう関東のお客さん。そんな気持ちを込めて、乗せて。最後の音を強く弾ききって、われわれのツアーでのライブは終わった。
さて、終演後急いでバラシ、気づいたらさっきまで踊っていた人々は誰もいなくなっていた。ガランとしたフロア。まるで夢のような感覚。
そしてついに最終日打ち上げ。ついに焼肉、ホルモン。マッコリ+ビール!最高でした!
関東ツアー、最高でした。ほんとうにみなさん、ありがとう。何だか新しいことが色々始まりそうな予感がします。今後ともどうぞどうぞ、宜しくお願いいたします!
そ、ずん、ずんずん、ずんずんどっこ、タンゴ!

以上、文責谷本仰

タンゴの節句2008#8

下関・下関酒造(5/6)

いよいよタンゴの節句2008千秋楽。会場入りする前に、唐戸市場で寿司やらふくの味噌汁やらで腹ごしらえ。リマちゃんはうにソフトにチャレンジ、複雑な表情。沢山の、タンゴの節句目指してきたお客さんたちともすれちがって挨拶を交わす。もうここでタンゴの節句・下関は始まってる。唐戸→下関酒造はタンゴの節句の定番コースになるつつあるかなひょっとして。

本番前、下関酒造・酒庵「空」の前には長い行列。そして入場するなりみんなおいしいお酒とおつまみを買って飲んで食べて上機嫌。東京から、広島から、大分から福岡から、あっちこっちから、ここでのタンゴショウを楽しみにしてるみんなが駆けつける。ツアー最後のここはこうしていつも、お祭。

ライブは最初っからものすごい盛り上がり。ライブの終わりにかけて尻上がりに盛り上がっていった各会場とは別物だこりゃ。わはは。

そして、リマ。昨年11月のプルポズ・タンゴウィークで衝撃のブエノスアイレスソロデビューを飾った彼のぶりぶりタンゴサックスが酒蔵の空気をびりびりと震わせる。彼のタンゴを聴くたびに、仲間がいるっていうことがしみじみ、うれしくなる。2曲目は我らがピアノ・秋元多恵子とのセッションもあって、スペッシャルな下関。

終わりまですごい盛り上がり。酒蔵を揺らす拍手喝采。うれしくって仕方がない、という表情の顔、顔、顔。ありがとう、ほんとうに、ありがとう。

終演後の恒例酒蔵での軽ウチアゲ。おいしいお酒とおつまみが並ぶ。出演者、スタッフ、そしてお客さんたちと一緒に。そして総打ち上げは下到津のイタリアン「イル・ブッフォーネ」で今年も。このツアーを全力で支えてくれたスタッフたちと共に。2時過ぎまで。うまい料理においしいワイン。もう話題は「次」のこと。

こんなのがあったよ、とアンケートの中からリリさんが抜き出した一枚。「下関酒造でファンダンゴスが始まって以来毎年、孫娘、主人と娘の4人で来ております。孫は小学4年生になりました。主人は一昨年に亡くなりました。手術の後も病をおして聴きにきました。今年は次の孫8ヶ月が出来ましたので娘はお留守番となりました。ファンダンゴスはいろいろの想い出を残してくれます。」
われわれは自分たちが楽しいと感じるタンゴをやってきた。自分たちの心や体がうごき、笑い、泣き、歌い踊る音楽をやってきた。でも、こうした声を前にして、われわれは自分たちのためだけにやっているのではなかったのだ、ということに改めて気づかされる。自分たちのタンゴが、聴いてくださっている人たちそれぞれの人生の想い出の物語と重なって、響いている。もはや、それはワレワレだけのものでは、ない。しみじみと、うれしくなる。そして厳粛な思いに満たされ、背筋が伸びる。

ああ、終わってしまった。今回、ほんとに早かった。あっという間だった。そして終わった後、どどどっと疲れがやってきた。ものすごいエネルギーを放出し、放電してたんだなあ、きっと。それを引っ張り出したのはお客さんのアノ期待と楽しみようだったのかもしれない。ワレワレも知らず知らずのうちに全く新しいワレワレになっていたし、東京に帰っていったケンジ&リリアナは、このツアーを経て、ダンスに変化が生じた、と言っている。なんだったんだろう、タンゴの節句2008(撮影班大久保徹によるスバラシイ作品群はコチラ!)。

ありがとう、みなさん。
ありがとう、ケンジ&リリアナ。
ありがとう、リマちゃん。

そして、ありがとう、タンゴ。

 

オマケ。(4/30、長安寺にて)

タンゴの節句2008#7

福岡・西南学院コミュニティセンター(5/5)

さていよいよ5/5、文字通りのタンゴの節句のその日。今回の福岡公演は西南学院コミュニティーセンター。昨年夏にオープンしたばかりの赤煉瓦を使ったホール。

楽屋でケンジさんは非常に年の離れたパートナーと、踊る。歩き始めたばかりの幼児を、それらしく躍らせてしまうなんて、すごいぜおやっさん。

 

 

福岡公演名物・いわつなおこ母タカコさんの手料理も届く。ちらし寿司、とりの照り焼き、いわしのぬか炊き、切干大根、漬物、…。うまいうまいむしゃむしゃ。

これで元気をつけて、さぁ本番。例年福岡のタンゴの節句の客席の雰囲気は、クール。みんなしっかり観て、しっかり聴く。熱くなるというよりも、じっくり楽しむ。それが福岡だった。でも、今回は違った。熱い。初めから熱い。ライブ開始直後から、声援が飛んでくる。そして一緒にうねりながら、盛り上がり、やっぱり最後に大波が押し寄せた。 なんだこれは一体。

しかもここ数年下関に飛び入ってくれてるリマちゃんが初めて福岡に乱入。彼は10年前にワタクシ谷本が渋さ知らズのテント旅で出会って仲良くなって、不思議にもタンゴで出会い直した仲間。彼のサックスは昨年秋のブエノスアイレスでも本場のタンゴファンを魅了した。最高。こんなに熱く切なく、濁音のブロウで歌いまくるタンゴサックス、いるか?まるでゴジェネチェ。昨夜は彼の「カミニート」がノーマイクで観客を圧倒した。ものすごい反響。誇らしくて胸を張るワレワレ。そうだろう、そうだろう。

タンゴの節句に何年も続けて来てくださってるお客さんが福岡でもどんどん増えてきた。タンゴの節句以外のライブにも何度も足を運んでくださっているお客さんも。みんな楽しむために来ている。ファンダンゴスと一緒に、揺さぶられ、揺り動かされて、元気になるために、来ている。それがはっきり感じられる。

そしてこの夜のトリオ・ロス・ファンダンゴスの演奏にも、これまでになかった何かが感じられた。単純な躍動感とかエネルギーとか、そういう言葉では表現できない「いのち」のようなもの。何かが起きている。われわれ自身に、今、地殻変動のようなものが。何か変だ。何かが動いてる。よくわからないけれど、感じる。ナマズか?ファンダンゴス。

ケンジ&リリアナもすごかった。凄み。汗をほとばしらせながら、クール。熱いのに、静か。冷めてるんじゃなくて、醒めている。全身で見て、聴いて、感じて、考えて、研ぎ澄まされて、踊っている。

プログラムからも余計なものがそぎ落とされて、これまでで最高の流れ。ついにここまで来た。さあ、ここからどうなるタンゴの節句2008!…と思ったら、翌日でなんと最終日。ええッ!もうオシマイ?こんなに早く感じたことって無かった。明日、一体何が起きるんだろう。何に出会い、何がこの身体に刻み込まれるんだろう。

終演後はやっぱり「海鮮」へ。突然停電になる店内。点いたと思ったらまた停電。こんなのも珍しい。リマちゃんにゴマ鯖と海鮮丼をとりあえず食ってもらう。うまいうまいを連発するリマちゃんに対して、なぜか誇らしく胸を張ってそうだろうそうだろう。

そういえば2002年のタンゴの節句の総ウチアゲもここだった。酔いつぶれたヒトの顔にみんなでマジックでいたずら書き。めちゃくちゃやったなあ。あれから7年。オトナになったねえ。相変わらず騒いで店の人に注意されたりしてるノもいるけど。すんまっしぇーん。

さあ、いよいよ千秋楽。いくど、やるど。

タンゴの節句2008#6

番外編・門司港バルク(5/4)

この日はタンゴの節句2008としてのライブはオフ。でも止まらないファンダンゴスとケンジ&リリアナ。今日のライブは門司港。街あげてレトロフェスタの真っ最中、すごい人出。ライブ会場は門司港駅すぐ近くのイタリアンレストラン「バルク」のオープンカフェ。お客さんは飲み食いしながら、タンゴのミニライブをなんとノーチャージで楽しむという趣向。テラスのすぐ外は石畳の歩道を挟んですぐ港。ヨットやクルーザーが波に揺れている。軽くリハをすると、テラスで飲み食いを楽しんでいるお客さんや通りでタンゴの音に立ち止まる人たちの間から早くも拍手が。「いやいや、まだリハーサルですぅ。3時からやりますぅ。」(本番はこんなモンやおまへんで、オカクゴのほどを。うへへ)。

3年前、門司港レトロフェスタのチラシに小さく「トリオ・ロス・ファンダンゴス・アルゼンチンタンゴライブ」と書いてあったのを目ざとく発見し、どんなものか、と見に来て下さって以来、我々のグランアミーゴになってくださったSさんと東京に引っ越したのに全然そんな感じがしないSさんも駆けつけてくださって。こういう客さんに恵まれてワレワレほんとうに幸せ。早速ワインをご馳走になって、えへへー。

「今日はぼくたちはオフだからね。君たちシゴトしなさい」そんなことを口で言ってるくせにケンジ&リリアナはすでに完全に衣装に着替えてメークもばっちり。やる気満々。そりゃそうでしょ。ここでやらなきゃケンジ&リリアナじゃないですよオヤッサン。本番になると2人はオープンテラスから石畳の通りへと飛び出していく。みるみる膨らむ黒山の人だかりの中で踊りまくる2人を見ながら、またまた幸せな気持ちになる。こちらも曲順もその場で瞬時に決めながら、2人を煽るように演奏をたたみかける。戻り際に客席に今回のツアーの半分の3公演をハシゴしてくれたNさんを見つけるや早速引っ張りだして踊るケンジさん。こうやっていつもお客さんを楽しませることを考えている彼らは流石。2人がやっと席に戻ると、今度は誰かが通りで踊ってる。見るとなんとティエンポのミロンガでお馴染みの女性2人。後で聞けばたまたま遊びに来ていたのだという。嬉しいサプライズ!2回目のステージの前にはワタクシも外で少し客寄せ練り歩き。すかさず絡むリリアナ。ストリートやねえ。そしてまた、タンゴ、タンゴ、タンゴ、黒山。なんだかブエノスアイレスみたい。フロリダ通り?終演後はうんまいイタリアンとワインを堪能。花火が夜空を照らして、リリアナさんがおねむになって、また明日。

いよいよツアーは大詰め。気がつけばもう後2日、福岡と下関しか残っていない。早いなあ、今回は。

 

 

タンゴの節句2008#5

ユメニティのおがた(5/3)

タンゴの節句2008、4ヶ所目はユメニティのおがたの円形ホール。音響、照明、そして調律の頼もしいスタッフが今回も各会場で出演者よりも遥かに早く現地入りし、作業をしてくれて。この日はフロアの真ん中を四角いダンススペースにし、お客さんはそれを囲む形。ユメニティのおがたのスタッフも総出で会場作り。もともとステージ上にもダンススペースを取る予定にしていたのだけれども、結局ステージ上はバンドだけのスペースに変更。すでに終わっていたステージ上の照明の仕込みを、バンドがステージ前方に移動するのに伴って急遽変更。すんません、ありがとう。でも、やっぱりなんだかこの形、落ち着きます、ワレワレ。ブエノスアイレスのミロンガスタイル。

そして本番。前夜の地元・北九州で改めてパワーをもらって、いよいよ大きくダイナミックにうねりながらスピードを上げる、タンゴの節句2008。トリオの演奏も、たった一日で大きく変貌を遂げている。3人の演奏はそれぞれに自由にうごめき、息づき、絡み合い、大きく呼吸を共有しながらタンゴを織り成していく。われわれはこの瞬間、演奏で、タンゴを踊っている!そう感じる瞬間。

ステージの進行もライブごとに微調整が施され、余分なものがそぎ落とされ、お客さんがもっともっと楽しめる流れへと整えられていく。

そしてライブ中のお客さんの反応も、前夜の戸畑以上に大きく変化した。「のおがたのお客さんはシャイですしちょっとノリがよくないかもしれません…。どうぞ盛り上げてください」と直方公演の主催者側からは言われていたのだけれど、プログラムが進むにつれ、会場全体がタンゴに巻き込まれていくのがはっきりとわかった。1部の前半では遠慮がちだった会場は、2部の後半にはものすごい熱気、凄まじい拍手喝采とブラボー!の叫びで満ちた。総力を挙げたタンゴの節句2008のパワーが最大に発揮されつつあることを感じた、直方公演。

何もかもが変わっていく。日を追うごとにダイナミックに変化していく。それがタンゴの節句。生きてるみたい。いや、生きてるんだ。

この日は、いわゆるウチアゲはナシ。会場で解散しそれぞれ帰路に。お腹がすいたので、小倉組はウェストのうどん屋に入る。ああ、このあっさりした感じ、ええねえ。ケンジさんはこのツアー、ずっとケイタイを手放さない。うどん屋でもミクシー、だって。ぷぷぷ。ケイタイが遠いですぜ、おやっさん。