タンゴの節句2008#3

旧太平村・「森の風」(4/30)

前日は「蕗薹」に泊めていただき、温泉に入ってゆっくりして、ツアー開始までに溜まった疲れを取る。おいしいご飯の朝食をいただき、出発。実は出演者スタッフ全員で宿泊するのはタンゴの節句7回目にして初めて。長安寺や「昭和の町」を観光して旅情も味わいながら、午後、いよいよ会場入り。

「森の風」は大分県と福岡県の県境に近い旧太平村にある。なんと東京ドーム11個分の広大な山あいの敷地。この日の会場は「森の集会場」。普段は披露宴などが催されるホール。

木の床の会場は音がよく響く。ピアノはスタインウェイ。これもよく響く。でもタンゴのピアノに必要なゴリッとした手ごたえに乏しい。今日はピアニストが少し苦労しそうだ。

ホールを横長に使ってこの日の会場は設営されている。ステージの前にはダンススペースが設けられ、これを11のテーブルが囲む。照明は前日もそうだったけれど、このスペースを縦横無尽に踊るダンサーの足元にしっかり当るようにセッティングされて。

プログラムは前日の蕗薹と同じもの。段取りは少しだけ修正。ツアーの初日はプログラムの流れやグアイを確かめながらやらざるをえないので独特の緊張感があるのだけれど、2日目になると、演奏も思い切りがよくなってうねりが大きくなってくる。この変化は今までにないスピード。そしてこの日はお客さんが乗ってくるのも早かった。実は我々は2006、2007と、近くの中津でタンゴの節句公演をやっている。この日のお客さんの中にはすでに何度もわれわれのショウを見てくださっていて、楽しみ方を心得ている方が何人もおられたようだ。リリアナのソロをフィーチャーした「オブリビオン」が深い悲しみを湛え、そこからインストゥルメンタルで明るく美しい「想いの届く日」へ転じる。プログラム中盤のこのあたりから、明らかに拍手がぐっと大きく、強くなってくるのがわかる。ステージと客席が一体になる瞬間。そしてタンゴが全てを支配する瞬間。演奏とダンスの勢いにも、拍車がかかる。クラシック用のチューニングが施されていたスタインウェイも、いつのまにかタンゴの音を出し始めていた。「タンゴなんてお下品な」とお高くとまっていたピアノをねじふせるピアニスト秋元多恵子、恐るべし。終盤にさしかかるあたり、ケンジ&リリアナはダンススペースを離れ、お客さんのテーブルの間へと入っていく。お客さんの嬉しそうな顔。われわれもうれしくて幸せになる。そして、割れんばかりの大喝采の中、公演終了。

この日も帰っていくお客さんを見送る。お客さんが口々に「ありがとうございました」と言ってくださる。それはこちらが言うべきこと。だから本当に心から「こちらこそ!」これ、演奏後のご褒美です。
終演後、森の風がおいしいワインを出してくださって、片付けがてら楽屋で乾杯。そして帰り道にひょいと焼肉屋に飛び込み、例によって例のごとく、ファイヤー!明日は一日オフ。そしていよいよ5/2、ウェル戸畑へ!

タンゴの節句2008#2

豊後高田・旅庵「蕗薹」(4/29)

初日は大分県豊後高田、旅庵「蕗薹」での公演。水道水がそのまま、おいしい。地元合鴨米のおにぎりが最高にウマイ。すぐ隣は国宝の「富貴寺」。苔むした石段、静かな空気、木漏れ日。木立にはウグイスの声がこだましている。しかしこの声がとってもはっきりとよく通る、たくましく強い声。負けてたまるか!とばかりに、小さな会場に集まったお客さんの目の前でタンゴが解き放たれ、タンゴの節句2008の幕が切って落とされた。

お客さんはケンジ&リリアナが登場するたびに溜息、曲が終わって2人がハケるとまた溜息、そしてしばらくザワザワザワ。そうでしょうとも。普通のダンサーならワンステージで2曲程度しか踊らないのだがこのヒトたちは違う。これでもか、と踊りまくる。しかもこの2人、衣装も、そしてなにより表現する世界が一曲ごとに全部違う。そして何より、楽しそう。

初めは少し固かった客席も曲を追うごとに柔らかく熱くなって。しまいには座敷でスタンディングオベーション。終演後はお客さんほぼ全員がアンケートを書いてくださって、誰もすぐに帰らない。こんなの初めて。そしてみんなうれしそうな顔で帰って行く。「初めてタンゴを目の前で観たけれどヨカッタア!」「タンゴ好きになりました!」口々にそんな風に言いながら。ああ、ありがたいなあ。幸せです。

ツアーはこうして始まった。明日は、旧太平村・「森の風」。

タンゴの節句2008#1

前夜祭(4/28)

4/28。ケンジ&リリアナ到着!今日からいよいよ始まるツアーのリハーサル。八幡西区の穴生市民センターにて。一年ぶりなんだけれど全然久しぶりという感じがしない。まずはプログラムの検討。そして短くリハーサル。お互いに、そしてそれぞれに、感触を確かめるように新しい曲や確認の必要な曲の打ち合わせ。突然アレンジが変更になる曲もある。

ここでのリハーサルはいわば出発点の確認。ツアーが始まり進んでいくうちに中身はどんどん変わっていく。それを予期しながらの、準備。

そして、恒例・リハのウチアゲ。毎回お世話になってる明月の前の看板の柱にはばりばりっとツアーチラシが貼ってあり、興奮。イカの刺身、レバ刺、蒸し豚、サムゲタン、辛味肉スープ、カルビ、タン塩、味付カルビ、ハツ、丸腸、ホルモン、ナムル、キムチ、ハラミ、まだあったっけ。ご飯。そしてマッコリ、ビール。ぷはー。

ワイワイやりながら、みんな考えてる。早速今日、そして明日、どんな楽しいことをやってお客さんに楽しんでいただこうか。そのことを、ワクワクしながら。

いよいよ始まる。今回もきっと、すばらしいことが待っている。タンゴが、それに出会わせてくれる。行くぜ!タンゴの節句2008!

タンゴの節句2007#1

台風の目玉の予感

予感は、あった。タンゴの節句2007直前までケンジ&リリアナの2人はブエノスアイレスに4週間滞在していた。その間何度もメイルで「曲は決まった?プログラムは?」と矢の催促。これまでと何か雰囲気が違うゾ、いつも前日に一緒に決めてたやん、とこっちはおっとり刀。

すると「台風(エル・ウラカン)は必ずやるよね?」とこれまた念を押すようなメイルが4/17に届く。ピンときてすかさず「何か秘策でも?」と返事。するとまもなくまたメイルが。「何でや?わたしらがやるいうと谷もはんもいわつも秘策だとか仕掛けだとかいわはるんですか?真摯に取り組みたいだけです」の返事。ケンジさんからのメイルはトリオの三人に必ず同時に送られている。いわつなおこも本能的にナニかをかぎつけ、「ナニカ仕掛けでも?」と返信していたらしい。わはーユニゾンの妙、ファンダンゴス。そしてそのメイルへの返事の様子から見るとどうやら予感は当っている気配濃厚。

二日後またケンジさんからメイル。「台風ただ今完成 これはファンダンゴスとリリケン(リリアナ&ケンジ)でしか表現できない自信作 我らの一体感が作り上げる異次元ワールド 早くやりたい」

やっぱり!今回のタンゴの節句の目玉は、「台風」だ!昨年6月のブエノスアイレス公演時もオオウケしたこの曲。一体どういうことになるのか!タンゴの節句2007まで、後9日。(続く)

 

ケンジ&リリアナ台風襲来(2007/6/9)

4/27。ケンジ&リリアナ九州入り。いよいよ翌日から始まるタンゴの節句ツアー2007を前に、ファンダンゴスの3人とケンジ&リリアナでリハーサル&打ち合わせ。そういえば昨年6月ブエノスアイレスで別れて以来の再会。そしてそういえば前回はここにプルポ&ルイサもいたんだなあ。感触を確かめるようにリハーサル。

ケンジ「ケハス・デ・バンドネオンはテンポ上げることできる?」
トリオ「できますよ」
ケンジ「同じ感じのが続いてもアレだからね」
いわつ「ひょっとしてテンポだけで変化つけようとしてません?」
ケンジ「…い、いや、そんなことは…」
わははは

長年のライブでいつのまにか定まってきていたテンポを変えて、ドライブ感をあげる。いつもならぐぐっとブレーキをかけてテンポを落とす部分も、かっ飛ばすように変更。新鮮な「ケハス」。こういうのをぱぱっと自在に変更できるのもワレワレの強み。

そしてついにベールを脱いだ「台風」。死ぬかと思った。笑い死に。マーラフンタの爆笑振り付けもそういえばブエノスアイレスで完成したんだった。これも負けず劣らず爆笑巨編。小道具も使って。ああこれは翌日からのツアーの目玉だ、やっぱり!

ツアー用に準備した新曲も聴いてもらう。「悪魔のロマンス」「心の底から」「ラ・トランペーラ」。そしてこれまでやった曲の中から踊る曲を決めてもらう。これはこれまでの手順通り、と思ったら…。

ケンジ「あんたらダンサー泣かせやで。普通前日に踊る曲決めたりせえへんで。」
リリアナ「そうだよ、あたしたちくらいだよ、こんなことやるの」
トリオ「だって今までずっと前日に一緒に決めてきたやん」
ケンジ「これからはもっとタンゴに対する真摯な取り組みが必要でっせ」
トリオ「へえええいわっかりましたああああ。で、何します?あれも、これも、あ、それもやりましょうよ踊ってくださいよ、えっとこれで…11曲か、まだいけますよね」
ケンジ「ひええええ」

すんまっしぇえええん、やっぱりきっと世界一ダンサー使いの荒いバンドだ。まことに申し訳ないでもとにかく一緒にやりたいのだこれでいいのだ楽しいのだ。

リハが楽しいっていうのは、大事なことだと思う。もちろん本番が最高なのは当たり前だけれど、リハでアイデア出し合ったり、修正・変更したり、新しくしたり、つまりどんどん変えるということを共同作業でやる。これが楽しいかどうか。ワレワレの場合、これはとっても肝腎なことなのだ。誰かが譜面を書いてくる。その人の指示通りに他の人が演奏し、踊る。そんなのは、トリオ・ロス・ファンダンゴス+ケンジ&リリアナとは無縁のこと。そして一緒にどんどん新しくなっていくタンゴを一緒に楽しむ。これですよ、これ。

リハーサル終了。もう気持はすでに恒例となったリハ打ち上げ会場「明月」へ。やったー。来た来た、タンゴの節句。こうでなくちゃ。

さあていよいよ始まるツアー。明日は長崎・諫早へ。

タンゴの節句2006#4

アクロスの変

やってきましたアクロス福岡。ここは毎年いい感じ。だいじょうぶって、と思ってたらこれがオオマチガイ。音響、ピアノ、とってもうまくいかない。

とにかくやらねばならぬ。本番前、いわつ母、毎年恒例の手作り楽屋弁当をどっさり届けてくれる。最高にうまい。ありがたや、最敬礼。

でなんとかそれなりに楽しんで演奏し、お客さんにもなんとか楽しんでもらって昼公演を終えると…なにやら不穏な空気が楽屋に。本番中になにやら問題発生らしく、ルイザは完全にメイク落として衣装はバッグの中に完全にしまいこんじゃった。あらら。このままだと夜公演はケンジ&リリアナだけ?えらいこっちゃないかいな。

でもケンジさんすうっと寄ってきて「おんもしろいことになってきたんねええええ。こういうどうなるかわからない状況、楽しいねええええええ」だって。ぞぞぞ。わはは。さすが。

で、夜公演前。アタシ谷本といわつなおこは蕎麦を食いに行く。するとそこにケンジ&プルポ合流。ウマイウマイと蕎麦を食い、プルポはワサビと下ろし金を買い求め、どうやらルイザへのオミヤゲにする模様。プルポ、動く。

で、すんごく仲直りしてすんごく仲良くなっちゃう。ワサビ効果テキメン?どないやねん。よかったよかった。本番中もすごく幸せそうなルイザ。そしてライブ中自分たちの出番でステージにあがり際、われわれのところに寄ってきて一言二言笑わせていったり、ハジケるプルポ。まるで何か憑き物が落ちたかのようにライブを楽しむプルポ。

音響もうってかわってよくなった夜の部。一体ナンだったんだ昼間のアレは。

ということでウチアゲは鮮魚市場会館の「海鮮」。そう、ケンジさんはここでプルポに蛸の刺身を食わせたい、と思いついてこのツアーへの彼らの参加を実現しちゃったんですよ、ええ。何食べたっけなあ。前日に着いた東京からの友人たちも一緒に。とにかく、楽しかった。

 

番外編【3】和な一日

5/6は楽日前の休日。蕎麦でも食わんとて富野の「花れ」へ。どうしても音を立てて蕎麦をすすることができないルイザ。その後ゲタを買いに行く。抹茶アイスを食べに行く。翌日のライブ飛び入り予定のリマタンゴ広沢リマ哲ちゃんも合流して、なんだか日本人離れした店員みたいになってる。和やかで、静かで、和な、オフ日。

 

そして千秋楽

やってきました今年もツアーの千秋楽は下関!下関酒造「酒庵・空」でのタンゴショウ!毎年ここは最高の盛り上がりを見せる。おいしいお酒が試飲価格でどんどん呑める。フク寿しやらおでんやら、最高のおつまみがある。

出演者、会場入りしてまずは試飲大会。あれもこれも呑み比べ。何しとるこっちゃら。だってファンダンゴスの名前入り特製ラベル付き吟醸酒があったりするんだもん。ああこりゃこりゃ。すんません裏方スタッフ懸命に働いてくれてる最中に。最低。

リマちゃんに佐藤美由紀ちゃんもやってきた。ちょっと呑んで既に少しおもしろくなっているみゆきちゃん。リマちゃんが盛んに「もう呑むなってば」と止めている。

2人には2部の途中に2曲ほどやってもらうことに。「マレーナ」と「リーベルタンゴ」に決定。そして最後に「ラ・クンパルシータ」のセッションを、という段取りに落ち着く、はずだった。

ところがそのリハ中にハプニング。リマちゃんが何の気なしに吹いた「オブリビオン」に何となくファンダンゴスが即興で合わせたのが運のツキ。ケンジさん飛んできた。「いいねえ、本番でやんなよ」「ええ?そんなムチャな。一度も弾いたことない曲ですよ」「へええファンダンゴスともあろうものがしり込みするんだあ」ぬぬぬ。するとルイザもまろび出てきた手を合わせて懇願する「この曲で躍らせて!お願い!」 「へえええええファンダンゴスともあろうものが」「お願い」「へえええ」「お願い」えええいもう!わかったやりますよやりゃあいいんでしょ。

てことで急遽、ピアソラのオブリビオンをセッションすることに。そしてプルポ&ルイザが踊ることに。そして前日まで彼らが踊っていた「ブエノスアイレスの冬」はケンジ&リリアナが踊ることに。物凄豪華。

そして本番。何も言うことなし。とにかく、とにかく楽しい一夜。最高の、千秋楽。プルポ&ルイザは最高の踊りを見せた。もっとも深く、そしてもっとも楽しんだこの夜の2人。うれしかった。

リマタンゴの2人は最高だった。リマちゃんと出会ったのはテント渋さ知らズにアタクシ谷本が飛び入った1997年のこと。9年を経て、不思議にも我々のツアーにリマちゃんが飛び入り、タンゴを吹いてる。信じられない光景だ。美由紀ちゃんとは二年半前初めて東京ツアーしたときに出会った。彼らが演奏しているのをステージ脇で見ているうちに、涙が溢れた。不思議だなあ、こんなことがあるんやなあ、嬉しいなあ…。夢のようだった。

そしてケンジ&リリアナは、やっぱり最高だ。今回のツアーで最初で最後の彼らの「冬」。ほんとうに美しかった。演奏しながらまた、涙が出た。なんだかホロリホロリの下関。何よりも、彼らは人を幸せな気持ちにしてくれる。その柔軟さ、その懐の深さ、その表現の幅広さ。本当に素敵な人たちだ。

下関で活躍したのは会場に溢れるお客さんをミゴトに収容する客席を設計設営したピカラックのたにせみき(彼女は小倉・博多公演でもミゴトな客さばきをみせた!ブラボっ!)、そしてその手足となって働いた(こき使われた)広島の芝居ユニット「アリノネ」の皆さん。彼らとは3月に広島で「新しい天使 ~月に一番近い丘まで~」という芝居で一緒に組み、そして10月6-8には小倉で再演が決定している。彼らが芝居の舞台設営でなれた腕を振るってくれたおかげで、約190名ものお客さんがこの素敵な千秋楽を楽しむことができたのだ。本当にありがたいこと。

ウチアゲは0次会を現場で、1次会を門司港バルクで、そして2次会を小倉の居酒屋ぶんぶんで。

未明、居酒屋の裏の駐車場で、みんなと別れる。仲間だ。友だ。そして、家族だ。みんなお互いに抱き合って、ありがとう、ありがとう、と繰り返してる。こんなス的な人たちに囲まれて、ファンダンゴスは何て幸せなんだろう、と心から思う。

タンゴの節句ツアー2006、終了。ああ、終わっちゃった。楽しいことはあっという間に終わってしまう。でも、確かな手ごたえが、残ってる。

そいつをもって、ブエノスアイレス。行ってきます!

そしてまた来年も、タンゴの節句をどうぞ宜しく!!