中田リリアナさやかさん 2 (2022/4/14)

アストル・ピアソラ作曲『天使のミロンガ』

ピアソラの連作『天使のイントロダクション』『天使の死』『天使の復活』に連なる作品。

ピアソラの楽曲に感銘を受けた劇作家A.R.ムニョスの依頼により、舞台「天使のタンゴ」で使われた。
人々の魂を救済しにこの地に舞い降りた天使が、ブエノスアイレスの場末でナイフで刺殺されるという内容だ。

「天使のミロンガを演奏し、ケンリリさんらが踊るにあたり、見てほしい画像がありますねん」(。)
と谷本さんから言われたのは、2003年。イラク戦争勃発の年だったと思う。

凄惨な出来事があった瓦礫のなか、男性が腰をかがめて立っている。
丈の長いイスラムの衣服に身を包んだ老人の腕の中のか細い子ども。
着ているボロボロの衣服の色彩から女の子とわかる。
砂塵にまみれた白い顔は力なく眼を閉じ、口の周りはまだ鮮やかな色の血で汚れていた。

あんまりだ
とは、思った。
思ったが、眼をそらすことができなかった。
長い時間、瓦礫のなかのふたりを見ていた。
女児は死んでしまったのだろうか。
老人はこの子の家族なのだろうか。
こんなめに遭うことを誰が望むものか。

トリオ・ロス・ファンダンゴスの演奏のなかで踊ることが、祈りにとても似たものになってきたのは、おそらくこの光景を画像で見てからではないだろうか。

現在ミロンガで一番踊らせるタンゴバンド、と大人気のトリオ・ロス・ファンダンゴス。
その根本にはいつも光を求めて両腕を差し伸べる、なにか胸掻きむしられるような焦燥と渇望がある。
そう私は感じる。
いろんなことがあるし
いろんな人がいるけど
あの一点の光
信じる光にいつも顔を向けて
行く道を進むのだ。
と、演奏のなか、彼らの咆哮が聞こえてくるのだ。

だからトリオ・ロス・ファンダンゴスと踊るときは祈る。誰かの安寧、誰かの幸福、救い、寛容、歓びをもとめて。