タンゴの節句2008#4

ウェル戸畑(5/2)

北九州はトリオ・ロス・ファンダンゴス発祥の地。本番前から楽屋にはお客さんからのオイシイ差し入れがどんどんやってくる。ああ、地元の愛。元気が出ます!ぐらしあす。

そして本番開始!最初っからお客さんが「待ってましたッ!」とばかりに迎えてくれる。ああ、地元の愛。盛り上がります、ぐらしあす。楽しんでいるお客さんの顔がステージ上からもよく見える。ケンジ&リリアナはステージをかけおりて、客席の中央を横切る通路へ。実はこの日、この通路はサブステージとして使おう、と決めていた。並んでいた椅子を一列丸ごと撤去。そしてそこにもばっちりあたるように照明が仕込んであって。目の前で突然踊りだしたケンジ&リリアナに後方のお客さんも大喜び!これは楽しそう、とワタクシも思わずそこで弾きまくる。〆はチャルメラのテーマ。ところがこれにすかさずアコーディオンいわつなおこ、そしてピアノ秋元多恵子がハモる。「森の風」あたりから突如始まったこの流れ、どうやら今回のツアーのひとつの目玉になりそう。

2ステージで全22曲を演奏。普通のダンサーは1ステージあたり2曲ずつがせいぜいだ。でもタンゴの節句ではそういうわけにはいかない。ケンジ&リリアナはその3倍くらい踊る。そう、トリオ・ロス・ファンダンゴスはきっと日本一、いや、世界一ダンサー使いの荒いタンゴバンド!そしてそれに応えて余りあるどころか、どんどんバンドを挑発し、煽り、お客さんをのせてくるケンジ&リリアナ。こんなダンサーはどこにもいない。日本にも、世界にも、きっと。いよっ!宇宙一!

踊っては着替え、着替えては踊るケンジ&リリアナ。2人の顔から汗が滴り落ちる。戸畑の春はさながら、ブエノスアイレスの夏。お客さんを楽しませるためなら何でもやるよ!とばかりに、2人の踊りも熱を帯び、迫力を増し、底知れぬ深みを見せたかと思うとお客さんの笑いを誘う。こっちも負けてはいられない。演奏に拍車がかかる。そしてお客さんもどんどんのっていく。かくしてバンドとダンサー、そして客席が2部の後半にかけて一体となって大きくうねる。そして終盤の拍手喝采は怒涛のように。そしてアンコール。ケンジ&リリアナにとっては12曲目のダンス。お客さんたちはほんとうに大喜び。

ありがとう戸畑、北九州。力を、元気をもらいました。

終演後は黒崎・広安里でうんまい焼肉。さあ、明日は直方だ!

タンゴの節句2008#3

旧太平村・「森の風」(4/30)

前日は「蕗薹」に泊めていただき、温泉に入ってゆっくりして、ツアー開始までに溜まった疲れを取る。おいしいご飯の朝食をいただき、出発。実は出演者スタッフ全員で宿泊するのはタンゴの節句7回目にして初めて。長安寺や「昭和の町」を観光して旅情も味わいながら、午後、いよいよ会場入り。

「森の風」は大分県と福岡県の県境に近い旧太平村にある。なんと東京ドーム11個分の広大な山あいの敷地。この日の会場は「森の集会場」。普段は披露宴などが催されるホール。

木の床の会場は音がよく響く。ピアノはスタインウェイ。これもよく響く。でもタンゴのピアノに必要なゴリッとした手ごたえに乏しい。今日はピアニストが少し苦労しそうだ。

ホールを横長に使ってこの日の会場は設営されている。ステージの前にはダンススペースが設けられ、これを11のテーブルが囲む。照明は前日もそうだったけれど、このスペースを縦横無尽に踊るダンサーの足元にしっかり当るようにセッティングされて。

プログラムは前日の蕗薹と同じもの。段取りは少しだけ修正。ツアーの初日はプログラムの流れやグアイを確かめながらやらざるをえないので独特の緊張感があるのだけれど、2日目になると、演奏も思い切りがよくなってうねりが大きくなってくる。この変化は今までにないスピード。そしてこの日はお客さんが乗ってくるのも早かった。実は我々は2006、2007と、近くの中津でタンゴの節句公演をやっている。この日のお客さんの中にはすでに何度もわれわれのショウを見てくださっていて、楽しみ方を心得ている方が何人もおられたようだ。リリアナのソロをフィーチャーした「オブリビオン」が深い悲しみを湛え、そこからインストゥルメンタルで明るく美しい「想いの届く日」へ転じる。プログラム中盤のこのあたりから、明らかに拍手がぐっと大きく、強くなってくるのがわかる。ステージと客席が一体になる瞬間。そしてタンゴが全てを支配する瞬間。演奏とダンスの勢いにも、拍車がかかる。クラシック用のチューニングが施されていたスタインウェイも、いつのまにかタンゴの音を出し始めていた。「タンゴなんてお下品な」とお高くとまっていたピアノをねじふせるピアニスト秋元多恵子、恐るべし。終盤にさしかかるあたり、ケンジ&リリアナはダンススペースを離れ、お客さんのテーブルの間へと入っていく。お客さんの嬉しそうな顔。われわれもうれしくて幸せになる。そして、割れんばかりの大喝采の中、公演終了。

この日も帰っていくお客さんを見送る。お客さんが口々に「ありがとうございました」と言ってくださる。それはこちらが言うべきこと。だから本当に心から「こちらこそ!」これ、演奏後のご褒美です。
終演後、森の風がおいしいワインを出してくださって、片付けがてら楽屋で乾杯。そして帰り道にひょいと焼肉屋に飛び込み、例によって例のごとく、ファイヤー!明日は一日オフ。そしていよいよ5/2、ウェル戸畑へ!

タンゴの節句2008#2

豊後高田・旅庵「蕗薹」(4/29)

初日は大分県豊後高田、旅庵「蕗薹」での公演。水道水がそのまま、おいしい。地元合鴨米のおにぎりが最高にウマイ。すぐ隣は国宝の「富貴寺」。苔むした石段、静かな空気、木漏れ日。木立にはウグイスの声がこだましている。しかしこの声がとってもはっきりとよく通る、たくましく強い声。負けてたまるか!とばかりに、小さな会場に集まったお客さんの目の前でタンゴが解き放たれ、タンゴの節句2008の幕が切って落とされた。

お客さんはケンジ&リリアナが登場するたびに溜息、曲が終わって2人がハケるとまた溜息、そしてしばらくザワザワザワ。そうでしょうとも。普通のダンサーならワンステージで2曲程度しか踊らないのだがこのヒトたちは違う。これでもか、と踊りまくる。しかもこの2人、衣装も、そしてなにより表現する世界が一曲ごとに全部違う。そして何より、楽しそう。

初めは少し固かった客席も曲を追うごとに柔らかく熱くなって。しまいには座敷でスタンディングオベーション。終演後はお客さんほぼ全員がアンケートを書いてくださって、誰もすぐに帰らない。こんなの初めて。そしてみんなうれしそうな顔で帰って行く。「初めてタンゴを目の前で観たけれどヨカッタア!」「タンゴ好きになりました!」口々にそんな風に言いながら。ああ、ありがたいなあ。幸せです。

ツアーはこうして始まった。明日は、旧太平村・「森の風」。

タンゴの節句2008#1

前夜祭(4/28)

4/28。ケンジ&リリアナ到着!今日からいよいよ始まるツアーのリハーサル。八幡西区の穴生市民センターにて。一年ぶりなんだけれど全然久しぶりという感じがしない。まずはプログラムの検討。そして短くリハーサル。お互いに、そしてそれぞれに、感触を確かめるように新しい曲や確認の必要な曲の打ち合わせ。突然アレンジが変更になる曲もある。

ここでのリハーサルはいわば出発点の確認。ツアーが始まり進んでいくうちに中身はどんどん変わっていく。それを予期しながらの、準備。

そして、恒例・リハのウチアゲ。毎回お世話になってる明月の前の看板の柱にはばりばりっとツアーチラシが貼ってあり、興奮。イカの刺身、レバ刺、蒸し豚、サムゲタン、辛味肉スープ、カルビ、タン塩、味付カルビ、ハツ、丸腸、ホルモン、ナムル、キムチ、ハラミ、まだあったっけ。ご飯。そしてマッコリ、ビール。ぷはー。

ワイワイやりながら、みんな考えてる。早速今日、そして明日、どんな楽しいことをやってお客さんに楽しんでいただこうか。そのことを、ワクワクしながら。

いよいよ始まる。今回もきっと、すばらしいことが待っている。タンゴが、それに出会わせてくれる。行くぜ!タンゴの節句2008!

タンゴの節句2007#1

台風の目玉の予感

予感は、あった。タンゴの節句2007直前までケンジ&リリアナの2人はブエノスアイレスに4週間滞在していた。その間何度もメイルで「曲は決まった?プログラムは?」と矢の催促。これまでと何か雰囲気が違うゾ、いつも前日に一緒に決めてたやん、とこっちはおっとり刀。

すると「台風(エル・ウラカン)は必ずやるよね?」とこれまた念を押すようなメイルが4/17に届く。ピンときてすかさず「何か秘策でも?」と返事。するとまもなくまたメイルが。「何でや?わたしらがやるいうと谷もはんもいわつも秘策だとか仕掛けだとかいわはるんですか?真摯に取り組みたいだけです」の返事。ケンジさんからのメイルはトリオの三人に必ず同時に送られている。いわつなおこも本能的にナニかをかぎつけ、「ナニカ仕掛けでも?」と返信していたらしい。わはーユニゾンの妙、ファンダンゴス。そしてそのメイルへの返事の様子から見るとどうやら予感は当っている気配濃厚。

二日後またケンジさんからメイル。「台風ただ今完成 これはファンダンゴスとリリケン(リリアナ&ケンジ)でしか表現できない自信作 我らの一体感が作り上げる異次元ワールド 早くやりたい」

やっぱり!今回のタンゴの節句の目玉は、「台風」だ!昨年6月のブエノスアイレス公演時もオオウケしたこの曲。一体どういうことになるのか!タンゴの節句2007まで、後9日。(続く)

 

ケンジ&リリアナ台風襲来(2007/6/9)

4/27。ケンジ&リリアナ九州入り。いよいよ翌日から始まるタンゴの節句ツアー2007を前に、ファンダンゴスの3人とケンジ&リリアナでリハーサル&打ち合わせ。そういえば昨年6月ブエノスアイレスで別れて以来の再会。そしてそういえば前回はここにプルポ&ルイサもいたんだなあ。感触を確かめるようにリハーサル。

ケンジ「ケハス・デ・バンドネオンはテンポ上げることできる?」
トリオ「できますよ」
ケンジ「同じ感じのが続いてもアレだからね」
いわつ「ひょっとしてテンポだけで変化つけようとしてません?」
ケンジ「…い、いや、そんなことは…」
わははは

長年のライブでいつのまにか定まってきていたテンポを変えて、ドライブ感をあげる。いつもならぐぐっとブレーキをかけてテンポを落とす部分も、かっ飛ばすように変更。新鮮な「ケハス」。こういうのをぱぱっと自在に変更できるのもワレワレの強み。

そしてついにベールを脱いだ「台風」。死ぬかと思った。笑い死に。マーラフンタの爆笑振り付けもそういえばブエノスアイレスで完成したんだった。これも負けず劣らず爆笑巨編。小道具も使って。ああこれは翌日からのツアーの目玉だ、やっぱり!

ツアー用に準備した新曲も聴いてもらう。「悪魔のロマンス」「心の底から」「ラ・トランペーラ」。そしてこれまでやった曲の中から踊る曲を決めてもらう。これはこれまでの手順通り、と思ったら…。

ケンジ「あんたらダンサー泣かせやで。普通前日に踊る曲決めたりせえへんで。」
リリアナ「そうだよ、あたしたちくらいだよ、こんなことやるの」
トリオ「だって今までずっと前日に一緒に決めてきたやん」
ケンジ「これからはもっとタンゴに対する真摯な取り組みが必要でっせ」
トリオ「へえええいわっかりましたああああ。で、何します?あれも、これも、あ、それもやりましょうよ踊ってくださいよ、えっとこれで…11曲か、まだいけますよね」
ケンジ「ひええええ」

すんまっしぇえええん、やっぱりきっと世界一ダンサー使いの荒いバンドだ。まことに申し訳ないでもとにかく一緒にやりたいのだこれでいいのだ楽しいのだ。

リハが楽しいっていうのは、大事なことだと思う。もちろん本番が最高なのは当たり前だけれど、リハでアイデア出し合ったり、修正・変更したり、新しくしたり、つまりどんどん変えるということを共同作業でやる。これが楽しいかどうか。ワレワレの場合、これはとっても肝腎なことなのだ。誰かが譜面を書いてくる。その人の指示通りに他の人が演奏し、踊る。そんなのは、トリオ・ロス・ファンダンゴス+ケンジ&リリアナとは無縁のこと。そして一緒にどんどん新しくなっていくタンゴを一緒に楽しむ。これですよ、これ。

リハーサル終了。もう気持はすでに恒例となったリハ打ち上げ会場「明月」へ。やったー。来た来た、タンゴの節句。こうでなくちゃ。

さあていよいよ始まるツアー。明日は長崎・諫早へ。