タンゴの節句2006#3

小倉はチガウ(6/2)

さて、ついにやってきました小倉の北九州芸術劇場小劇場公演。ここでの見ものは「照明」。時佐勝氏に腕を振るってもらう。今回はピンスポットは使わない、暗めの明かりで行きたい、と事前に伝えた。これが大成功。渋~いステージになりましたわいな。

去年に続き2回目のこのホール。ところがお客さんの反応がクールで静かだった前回とは全く違うものだった。熱いのだ。ダイレクトでストレート。ダンサーの一挙手一投足にお客さんがすばやく反応し、曲の最中でもどんどん拍手が起こる。そしてダンサーの加わらないトリオのみの演奏時の拍手も、曲を追うごとに大きくなっていく。トリオ・ロス・ファンダンゴスにとっての「地元」の北九州。「いいぞ!」とこんなに言ってもらえて、ただただ幸せ。もちろん結成から7年、我々の演奏やショウも、変わってきたのかもしれない。CD「3」も確かにこれまでとは違っている。そういえばこの公演ではMCも極めて短くコンパクトにし、次々に曲をたたみかけるようにやったのも、よかったのかもしれない。

そんな中プルポ&ルイザのダンスもますます深みを増す。照明がその世界をさらに奥深いものにする。悲しきミロンガでのリリアナ&ルイザの悲しみの表現も凄みを増す。今回のツアーは、この公演で明らかにひとつの山場を迎えたのだった。

ステージがますます楽しくなってきたのもこの公演。なんとケンジさん、ついにステージで喋り始めた。普通ダンサーはタンゴのショウでいきなり喋り始めたりしません。でもタンゴの節句は、何でもアリ。そう、楽しむためなら!曲は勿論「首の差で」。楽屋で即席に作った馬券の束をお客さんに見せながら、まだこの曲についてのMCがなされている途中に登場、「今はもう競馬じゃないよ。株だよ。日経平均が1万7千円を超え云々…ぼくは株で儲けて馬券を買うんだ」なんて言ってる。思わずこっちも「そんなこと言ってライブドアで失敗するんでしょ」とアドリブを入れる。「なんでそんなことここで言うの」と半分素に戻ってみせながらケンジさんが応じる。客席、爆笑。そう、こういうの、待ってた!

そうこうしているうちにリリアナ登場。この曲の衣装はお母さんのスーツをリフォームしたすこしクラシカルなもの。これがまた似合う。チャーミング。芸術劇場でそれが一層、映える。

プルポはこの日「首の差で」の登場の場面でサングラスを着けてでてきた。そしてそれはこの後、楽日まで続く。深い表現をもっと、と追い求めながら、楽しむということもし始めたプルポ。

終演。ものすごい圧力の拍手。本当にありがたくて、うれしかった。

しかし終演後、プルポ&ルイザは悩んでいた。プルポにとってこの日のステージは必ずしも思い通りではないものだったらしい。苛立ちをみせる彼。「一所懸命やったのよ、でも…」と涙ぐむルイザ。

いいや、素晴らしかった!よかったよ!と我々は2人に声をかける。しかし、周りにどういわれるか、ではなく、自分たちがどう思うか。それがプルポにとっては重要なのだ。より深く。自分たちが目指すものに少しでも近づこうとして。ここへ来て、彼自身はギヤチェンジをし、何かを変えようとしていたのかも、しれない。

さて、ウチアゲ。4/28に続き、八幡西区の「明月」へ。ところがそう、プルポはすでに実は焼肉飽和状態だった。そのことは後で知ったのだけれど。で、そんな彼の状態をヨソに、やっぱり、食って、呑んで、食ってしまった。明月最高っ!特製マッコリ最高っ!ファンダンゴス、最低っ!ごめんねプルポ。

 

番外編【2】門司港レトロ祭

5/3のオフ日を挟んで5/4は、レトロ祭で賑わう門司港へ。イタリア料理店の「バルク」でのライブに臨む。店の裏側は関門海峡を望むオープンテラスになっていて、その一角がステージ。セッティングまでの時間が空いていて、お祭見物。人ごみの中を出店を眺めて歩く。いい天気、日差しが強く、暑い。思わず「生ビールちょうだい」とか。プルポはたこ焼き屋の屋台を気にしていたり。プルポって蛸という意味なんですもんねこれが。で、昼ごはんは元祖瓦ソバ。うまうま。

さて、バルクに戻ってセッティング。そして簡単なサウンドチェック。軽く音を出すと、すでに拍手が起こる。いや、あの、まだですから。市政だよりにも載ったというこのライブ、演奏開始予定時刻には、テラスの外側の遊歩道に鈴なりの人だかりが。みんな期待に満ちた顔で、今や遅しと待っている。

「お待たせしました!トリオ・ロス・ファンダンゴスでございます!」と演奏開始。んんんタノシカルカル。ケンジさん「踊るのは2曲程度だから」なんて既に心にもない事を言っている。勿論、結局2曲おきに出てきて、2曲連続で踊ったり。遊歩道の石畳の上でガシガシ踊ったりしている。遠く離れた彼らの動きを目で追いながら、最後のキメを合わせたり。見てるねえー。

プルポは今日はオフと決め込んで、休んでいる。ルイザは踊りたくて仕方がない。その気配を察してケンジさん、ルイザを誘ってミロンガを踊る。プルポ&ルイザでは見られない光景。ルイザの嬉しそうなことと言ったら!顔だけじゃない。体中が、ダンスが、嬉しそう。ぼくらも幸せな気持ちになった。

終わってからは散歩したり、ゆっくり飲み食いしたり。日が暮れて、夜になって、そのまま夕食もバルクで食べて呑んで。花火も見て。おいしかった、楽しかった、の門司港の一日。

タンゴの節句2006#2

初日は温泉でタンゴ!

初日(4/29)、会場はなんと温泉!大分県中津の金色温泉の中にあるラウンジ&ギャラリー「ザリ」にて昼夜2公演。ここは料理もうんまくて。おっとやっぱりそっちに記憶と話題が偏るなあ。お昼はナント「端午弁当」。わはは。やりますなあ。

昼の部はツアーの幕開けでもあり、いわば手探りの部分もあってスリリング。プルポ&ルイザはとにかく早く出てきたがるのでびっくりする。こっちは時々曲間に喋って笑わせたりするので向こうは向こうでびっくりしてる。こっちは着替えができているかどうか間合いを測りながら喋っているのだけれど。何せ、普通のタンゴのショウではありえない数、ダンサーたちが踊るのがこのタンゴの節句ツアーの見ものなのでありますからな、おほほ。

昼の部は天窓から陽の光が床に落ちたりして面白い。新曲ガジョシエゴを初めてプルポ&ルイザがしっかりと踊る。うむむ、やはりすごいなあ。おもしろい。ルイザ&リリアナの悲しきミロンガの即興ダンスも鳥肌モン。そして「首の差で」。うはは、やっぱり面白い。これはきっとツアー中にもっと面白くなるだろう、と思う。

休憩中は散歩したり食事したり、ちょっと昼寝をしたり。そして夜の部。やはり周りが暗いと集中する雰囲気。でもみんなとっても楽しんだ。

終演後プルポがひとこと「なんでこんなにたくさん演るんだ?」。いきなりのダブルヘッダーでバテたかな。まだまだ始まったばっかりよおおおん。お客さんと一緒に腹いっぱい楽しむんだよおおおおん。

終演後はゆっくり温泉に浸かる。ふぃー。ありがたや。

あがってから足マッサージに興じる日亜男性ダンサーチーム。

ちなみに調律助手で来てたMさん、帰りがけに調律士オッチーに一言。「あの…本番終わってから来られたあの方はドナタでしょう。お風呂上がって体操してらして、ケイトミュージックのスタッフの方か誰かでしょうか、とっても場に馴染んでらっしゃったので…」。勿論それはメイクを落としたリリさんでえす。右写真中央、どすこいのヒトね。いつもながら、わっはっは。

 

番外編【1】ミロンガ

4/30は天神ティエンポでミロンガ。タンゴの節句ツアーの番外編ですわい。プルポとルイザ、ケンジとリリアナはタンゴダンスのクラスで指導後、ミロンガで踊る。お、オスカルとリンコもやってきた。相変わらず大きいなあ。うんプルポ&ルイサのダンスはさすがに重厚ですなあ。おほほ、ケンジ&リリアナはやっぱり楽しい。おや、後半はなんと次々に3組が踊る展開に。わはーおもしろいー。
…の一夜。

 

筑豊 de タンゴ!

さてツアーに戻って5/1は飯塚のフランス料理店「ふらんす亭」。早めに入ってまずはランチ。ステーキね。エスカルゴもね。ワインもね。うまいうまい。

その後調律や音響、照明でスタッフががんばってくれている間に…、近くの電器屋さんに。そこにはずらりとマッサージチェアが並んでて。いやあ、ゴクラク。熟睡してるヒトもいましたですよホンマ。

プルポは色んなモノを欲しがる。日本の車のナンバープレート。これはムリでしょ。鯉のぼりだの、日本の家の樋からぶら下がっている鎖のようなアレ、正式名称なんだっけ「鎖縦樋」だっけかな、それだの。色んなツテで入手を試みる。

そしてリハーサル。ところが…。気の早いご婦人方、続々やってきて、入ってきちゃう。ちょちょちょっと待ってぇぇぇ。開場時間までまだ小1時間ありますがな。ネタバレしますがな。

さて、いよいよ本番。くだんのご婦人方は大盛り上がり。伸び上がり立ち上がって見て、ノッて、笑って、入り込んで。うれしくなっちゃう。

しかし飲み食いとおしゃべりの方が忙しいお客さんもいる。中には喧嘩に発展するカップルなんかもいて。ほほほ。なんというかこう、最初っからタンゴだからこう、というような決まった聴き方などしない。こっちにゃこっちの都合があるんだ、てな感じ。この「筑豊感」というんでしょうか。それともアラバルな感じというのでしょうか。でも、そういうのはちっとも問題じゃない。ライブやミロンガで鍛えられてきたからね。よっしゃそっちがそうならこっちはこうだ、とばかりにガッシンガッシン。

後半俄然ケンジ&リリアナが燃える。後ろの方の、余りステージのほうを見てないお客さんの所まで行って鼻先でブンブン踊る。仏頂面してるコワモテのおいちゃんにちょっかい出してむりくり笑わせる。さっすがですなあ。

そして結局みんなを湧かせて楽しませて、のワレワレ。芸人よのう。

終演後は、再びおいしいふらんす亭の料理に舌鼓。ルイサはとにかく日本語をガンガン覚える。こっちは「イーホデプータ」だの、そんなのしか覚えられない。

タンゴの節句2006#1

始まりの始まり(4/27)

タンゴの節句ツアー2006。4月27日に、ケンジ&リリアナ、そしてプルポ&ルイザ、無事北九州到着。プルポ&ルイザが入国するのにルイザの国籍のあるブラジルの日本領事館やら日本の外務省やらがとにかくややこしい手続きを要求したらしく、一時は来日が危ぶまれ、チラシやらチケットやらスケジュールやらすでに動き始めた後で我々実は青ざめたのでありましたが、なんとか全てうまくいき、無事来日、北九州入り。ケンジ&リリアナ御両名、そしてなんどもアルゼンチンからブラジルに足を運んでくれたルイザ、本当にありがとうございました。

さて4月27日は顔合わせと簡単な打ち合わせなど。直方のイタリアンレストラン「レンピッカ」へ。ここの料理は最高。タンゴの節句の会場として一昨年はここで昼夜2公演をさせていただいたのでした。

うまいものを食いながら、打ち合わせなど。ピアノ弾きとアコーディオン弾きの連弾なんかも早くも飛び出して。ええと今日は何のウチアゲだっけ。そうか入国か。めでたい。さあ、始まりの始まり~。

 

始まりの準備(4/28)

つまり、リハーサル。毎年、このリハで、ツアーで演る曲目や順番段取りが大体決定する。ケンジ&リリアナのダンスをどのように配置するか。我々だけの演奏はどうするか。曲の雰囲気や前の年のツアーでやったことなども勘案する。

それに加えて今回はプルポ&ルイザが絡む。彼らのダンスがどんなものなのか、楽しみにしてリハに臨むが、余り踊らず。疲れもあったのだろうと推察。ところがショウの終わりのお辞儀の仕方については入念にリハをやろうとする。オモロイ。

「悲しきミロンガ」は、リリアナ&ルイザが踊ることになる。

そして「首の差で」の段取り。振り付けをなんとワレワレが大胆にもケンジ&リリアナとプルポ&ルイザに提案。曲は恋のさやあてを演じて若い恋敵に恋人を奪われ「首の差で負けた」と負け惜しみを言う男の歌。初めにリリアナ・ルイザと両手に花で踊るご機嫌のケンジさん。そして最後にちょい役で出てくるカッコイイプルポに2人とも奪われて、ケンジさんはポケットの馬券をちぎって宙に撒き、がっくりうなだれて終わる、という段取り。リリアナとルイザはケンジを巡って三角関係を面白おかしく演じよう、と早速ストーリーを膨らませる。こうやってどんどん面白くなっていくのが、楽しい。今回のハイライト!

で、めでたく大体決定したので、打ち上げ。リハの、ね。焼肉の名店、八幡西区鷹巣の「明月」へ。プルポ&ルイザには前日、「食べられないものはある?」と尋ね、「なんでもOK」という頼もしい返事を得ていた。万が一ワレワレのウチアゲに文化衝撃を受けるといけないと思ったので確認したのだけれど、どうやらこのアタリですでにネをあげかかっていたらしい。あ、やっぱり?ごめんね。プルポ。

…それでも構わず食うのであった。

ブエノスアイレス2006 #4

最後の日々

最後の演奏は、帰国の途に就く前日の6月18日。ブエノスアイレス市内の観光名所のひとつ「日本庭園(ハルディン・ハポネス)」でのコンサート。

散策用の小道の脇には松の木並木。大きな鯉が群れ泳ぐ池の上には橋がかかっていて。この日本庭園の中にある会館のホールが、コンサートの会場。一階には日本料理を出すレストランなどもある。二階のホールは何となく少し古い旅館やホテルなどにある大広間のような風情で不思議に懐かしい。

コンサート直前、ケンジ&リリアナの二人は庭園で、客集めのために踊り、ぼくがヴァイオリンで伴奏をすることに。晩秋のブエノスアイレスはもう肌寒い。風邪気味のケンジさんは衣装の下にセーターを着込もうとするが、不恰好に着膨れしてしまい、渋々セーターを脱ぐ。同様にリリアナさんも風邪気味ではあったが、ステージ衣装そのままの格好で野外で飛び出していく。さすが。

ヴァイオリンでジンタの旋律を奏でながら練り歩く。池にかかった橋の上で2人は踊ることに。ならば、と「ラ・クンパルシータ」を即興で。お客さんたちが足をとめ、嬉しそうに見入る。「これからホールでタンゴの演奏があります。無料ですのでぜひおいでください!」と今回のツアーの段取りをしてくれたダンサーのミホがすかさずアナウンス。お客さんをホールへ誘導する。この呼吸、まさに「一座」であります。

そして最後のコンサートが開演。サンテルモ・コロニアルのイネスの息子さんエミリアーノが通訳を引き受けてくれていて心強いが、ケンジさんはやはりすこし勝手が違うのを感じ取ったらしい。近寄ってきて「いつもの調子でやってえな」などとけしかける。お客さんは楽しんでくれて、演奏もぐんぐん乗ってくる。

大喝采のうちに予定していた曲目は全て終了。「オートラ!オートラ!」アンコール、何をしましょうか、とみんなに尋ねてみる。「ラ・クンパルシータ!」「ミロンガ!」あちこちから声が挙がる中、突如「マーラフンタ!」とケンジさんの声が飛ぶ。しかも日本でこの曲の「前説」でいつもやってた悪代官と悪徳商人の悪巧みトークもやれ、ということらしい。ぬぬぬ、地球の裏側でアレをやるのか、ええいままよ、アンコールだやってしまえ。「越後屋、そちもワルよのう」「いえいえお代官様程ではございませぬ」「なにをこやつ」「ぬわはははははーっ!」ハポンのサムライ番組のマネだ、ということがどれだけ伝わったのかはわからないが、意外にもみんな大爆笑。この部分だけがなんとなんとみほさんのブログにアップされているのであった。コチラ(「ファンダンゴス一座ブエノスアイレス興行」をクリックね)。お客さんを演奏中の笑い声係に巻き込んでの演奏も、これまたオオウケ。

終演後、たくさんの人たちがCDを買ってくれた。ありがたやー。みんな口々に「ムイビエン!」「ムイリインド!」と声をかけてくれる。ブエノスアイレスの人々が本当に喜んでくれたのだ。ほんとうにうれしい、最終公演だった。

終演後。上左:日亜タンゴソニドス、PAゴンサロとエジイ。ゴンサロはツアーに同行したエジイと完全に意気投合。こっちで一緒にタンゴのPAの仕事やろうや、なんてもちかけてた。にゃはは。
右:チノ!今回のツアー中、ミホさんと共にわれわれ3人を父親のような眼差しで見守ってくれた。

リリざーんす!

そして「一座」全員集合。一番左がミホさん。おかげですてきなブエノスアイレスデビューができました。何もかも、ほんとうに、ほんとうに、ありがとう!

後日この日の模様は邦字新聞「らぷらた報知」に載った。

そして帰国当日、空港に向かう直前まで、ドレゴ広場に面したカフェでやっぱり肉を食うのであった。うまー。

「ブエノスアイレスに一緒に行くならファンダンゴスと。ほんとうにそう思ってるんだ。」ケンジさんが静かにそう言ってくれたのが昨日のことのよう。気がついたらほんとうにケンジ&リリアナの2人と一緒にブエノスアイレスの街を歩き、そこで一緒にうまいものを飲み食いし、同じ空気を吸い、そして一緒にタンゴを演ってた。ありがとう、ケンジ&リリアナ。心の底から、ありがとう。ぼくらはほんとうに、シアワセモノです。

かくしてトリオ・ロス・ファンダンゴスの初めてのブエノスアイレスツアーは大成功のうちに終了。行く前にはいなかった友が、今はブエノスアイレスにいる。行く前には知らなかったタンゴが、今はブエノスアイレスに、ある。だから行く前よりも、今のほうが、何倍も何倍も、ブエノスアイレスが恋しい。

チャオグラシアス、ブエノスアイレス!
アスタルエゴ、アミーゴス!

オマケ。ボカ地区カミニートのカフェのモイラちゃんと秋元多恵子。わはは。

ブエノスアイレス2006 #3

ビエン・プレンタの夜

さて、3つ目のミロンガライブの会場は「ビエン・プレンタ」。本番は6/17。一週間前のミロンガに下見にでかける。ここはなんと世界三大劇場のひとつにも数えられるコロン劇場ができるまで、ブエノスアイレスのオペラハウスとして多くの人々に愛されていた劇場跡.。ジツに由緒正しい。

そういうわけでここには立派なステージがある。そしてその奥にステージ面よりも更に高くしつらえられたバンド用ステージが常設されている。そしてステージ全体が客席に向かって傾いている。おっとっと、つんのめりそう。ダンサーの足が下で座っていても見えるように、かもしれないがそうでないかもしれない。ミロンガの合間にはショウなんかもあって。

ステージ下手にはグランドピアノが鎮座。ところが…、なんとそれは外側だけ。中身はカラッポで、鍵盤のところにデジタルピアノが押し込んである!ひゃーすげー。こんなの初めて。ケイトさん嬉しそうに写真をとりまくる。

ブエノスアイレスには色んなミロンガがあって、それぞれに雰囲気や空気が違う。会場、集まる人たち、主催者、かかる音楽…それぞれに違いがあり、面白いのだ。ビエン・プレンタはぐっと落ち着いた雰囲気。

さて、この日はここに来るまでにカフェ・トルトーニでのショウを見に行く。トリオ・ロス・ファンダンゴスにとってはお馴染みのエドゥアルド・「師匠」マラグァルネラの息子のディエゴさんがヴァイオリンを弾いてた。バンドネオン、バイオリン、ピアノ、エレキベース(!)、歌手が男女ひとりずつ、そしてダンサーが一組。ライブチャージが30ペソ。演奏は洒脱で手慣れた感じ。いよっ!タンゴ芸者!歌手たちのデュオが楽しかったなあ。芸人ですわほんま。

そういえば滞在中、他にもライブやコンサートに行きました。たとえば6/15には、サロン・カニングのミロンガの主催者であるオマールさんが仕掛けるクラブ系タンゴイベントに。我々が着いて次の日に軽くリハーサルをやったあのスタジオの2階が会場。開場時間までまずは1階で若いタンゴ楽団が前座演奏。そしてやがて2階へ案内され、本編開始。ギターと歌のトリオによるライブ(このトリオで歌をうたっていたのはナント、ティエンポで友だちになったあのカルロスのCDで歌ってた女性だった!いや世界は狭い。

そういえばイデアールのときにお会いした日本人の女性がおもしろい事を教えてくれたっけ。彼女が別のミロンガで踊っていたらそこで出会った知り合いに「こんなところで踊ってる場合じゃないよ、今夜はイデアールに行け、トリオ・ロス・ファンダンゴスっていうのが日本から来てる。こいつらはハートで、魂で演奏するヤツラなんだ。絶対に聴くべきだ!」って言われて来た、だって。誰?その人?ってきいたらこれまた「カルロスって言うんですけど…」だって。うわはは、ありがたいこっちゃカルロス!ティエンポにタンゴダンス教えにきていたクセに我々と一緒にやるときは決して踊らずとにかく歌いたがったおもしろいヤツ。ありがたいことです。でも本人とは結局会えず。会いたかったナア。

そういえばフロリダ通り散策にでかけたときには、ストリートタンゴやってるダンサーたちに遭遇した。それは随分前にマラグァルネラ楽団と一緒に来日した時に行橋で会ったホセ・カルロスだったし(彼は我々のこと、覚えてた!)、一緒に踊ってたのはなんとこれまたティエンポ講師として来ていたジョアンナだった。地球の裏側でまた出会って、おーひさしぶり!なんて挨拶してる。不思議な感じ。そうそう、ここでもケンジ&リリアナはバンバン踊ったのでした。オオウケ)。タンゴでまっすぐつながる、福岡とブエノスアイレス。

閑話休題。オマールさん主催の深夜のタンゴイベント。モダンダンス、コンテンポラリーダンスとタンゴなどをあわせたようなダンスパフォーマンスを経て、いよいよトリの「エル・バゴン」登場。アコーディオン、ヴァイオリン、エレキギター、エレキベース、パーカッションの5人組。これがプログレやジャズの要素も取り入れたタンゴの演奏を繰り広げる。

ヴァイオリンはどこかで見たような、と思ったらフェルナンデス・フィエロのヴィオリニスタのひとりだった。暗い店の中に蝋燭の火が明滅し、色んなものを呑み込みまぜこぜにしたような音楽がその空気をさらにねっとりとした肌合いにしていく。突然主催のオマールさんがケンジ&リリアナを呼び出す。そして即興のセッションを提案。エル・バゴンの「リベルタンゴ」と、ケンジ&リリアナ。当たり前のように踊り出す2人。ここでも、彼らはこの場に満ち漂う空気を身に纏い、踊り、やがてその空気を味方につけていく。

タンゴは古い音楽ではない。今、生きて、息づいて、蠢き、身をくねらせ、飛びはね、疾走している。そう思わせられるひととき。

翌6/16にはコロン劇場へ。これああた、ビエン・プレンタと比べ物になりませんがな。ああ、びっくりした。室内管弦楽団が合唱団と繰り広げるサリエリとモーツァルトの夕べ。ああもう、すごいやこのホール。人間は芸術を楽しむためにこんなもん作っちゃうんだなあ。バルコニー席が実に6階も。最上階は天井桟敷、立ち見席。天井はドームになっていて見上げると吸い込まれそうになる。

写真撮ってて「ノー、カバジェーロ、ノー」と係の人に怒られちった。入場料は150ペソ。こいつはやはり高い。それでも日本よりは安いかな。実に気持ちのいい、弦楽器中心の室内楽の響き。それに加わる人間の声のハーモニー。それが上から降ってくる。ああもうたまらん。ぐぅ。極上の眠りでした。贅沢でしょ。他のみんなはみんな起きてちゃんと聴いてたって。いやあ、アタシの聴きかたが一番よ。わはは。それにしてもコロン劇場のカフェのケーキ類…。あれはいかん。でかすぎる、重すぎる、固すぎる、甘すぎる。あんなもん食ってたら身体にいいわけないよわかっちゃいるけどやめられないのかなあブエノスアイレスのシトたちには。参りました。

そして翌日6/17がビエンプレンタ本番。ステージは通常上手からバイオリン、中央にバンドネオン、そして下手にピアノという配置になっているらしい。でもファンダンゴスのいつもの配置に変えてもらう。アコーディオンは右手の鍵盤の横の部分から音が出る仕組みになっているので、向かって左側に立つと音がよく聞こえるのでありますね。そんなわけで。

今回の音響エンジニアはイデアール、カニングでエ爺と名コンビになったゴンサロではない。ビエンプレンタ付きの音響担当者。この並びに変えることを何となく面倒くさがってる空気。でもお願いして、きいてもらう。

ミロンガでの演奏はすでに3回目。MCまで緊張するアタクシもいつもどおり。わはは。ただ、ビエンプレンタでのケンジ&リリアナのデモは、これまでと違っていた。ケンジさんが「今日は一曲目でミロンガ・トゥリステをやるよ」という。「夏は?」ときくと「しない。そのかわり、フェリシアをやる」という。彼の「読み」があるのだろう。我々としてもフェリシアが一緒にできるのはうれしい。了解。やりまっせ。

ステージから遠くフロアで踊る2人を見ながら。深く沈み込むミロンガ・トゥリステ。そこから一転して華やかに明るく笑いを誘いながらのフェリシア。お客さんはこの振幅の広さ、落差のダイナミズムに大喜び。

2部の演奏が全て終了すると、ありがたいことにまたもや大拍手喝さい「オートラ!オートラ!」アンコールはカニングでオオウケした台風。フロアでみんな楽しそうにガシガシ踊る。そして途中からステージ上にケンジ&リリアナも登場。うほーい。またいいタイミングでホールのスタッフがスモークを焚いてくれる。いや焚いてくれるというよりも噴射!真横からブシュー!わはは、ええタイミングですわ。曲知ってるからこそ、の。動画がミホさんのブログに早々とアップされておりました。こちら。「無修正?!”TLF for EXPORT”」の項”TLF EN SABOR”をクリック!

そんなこんなで、”Peron 2543″(ペロン・ドスミル・キニエントス・クアレンタイトレス!)にある「ビエン・プレンタ」の夜。