カテゴリー: What friends say about the band

野沢ケンジさん2(2022/9/4)

私とリリアナさんは 30回近くブエノスアイレスを訪れています
そして毎晩 ミロンガへ行き 明け方まで います
ファンダンゴスも もちろん いっしょに付き合ってくれます
ある晩 人気ミロンガ エル ベソへ行った時
私は ファンダンゴスに
「ミロンガで かかっている曲を よく聞いてごらん
ミロンガで踊っている人たちを よく見ていてごらん」
と 言いました
ブエノスアイレスのミロンガで踊る人たちが創り出す波
それは ここでしか感じられません
狭い空間の中で ひしめき合いながら ぶつかることなく整然と
街の持つエネルギーと同じように カオスと整合の中で
音楽に揺られ ありったけのエネルギーを ぶつけあっています
この中に身を置いているだけで
知らぬうちに 踊る人のエネルギーが入ってきます

この翌日の ファンダンゴスのサロン カニングでの 演奏は 踊る人たち聞く人たちに
もっともっと と思わせるような 不純物を濾過した水が 身体のすみずみに
行き渡るようなタンゴを与えていました

また ラ ビルータ での セステートミロンゲーロの演奏を聞きに行った時
タンダ別の演奏とハビエルの歌は 踊る人の波を見ながら
目が合うとウインクしながら エネルギーを操っていました
それを最前列で 凝視し 大騒ぎしていたファンダンゴス

このミロンガでの体験を含む この年のブエノスアイレスツアーが
今の トリオ ロス ファンダンゴスの 基盤となっていったと思います

後年 谷本さんが 「ケンジさん なぜエルベソで ああ言ったの?」と聞きました
あの時のあの言葉を 覚えていてくれたのですね
タンゴの神様が 降りてきて 私の口を借りて
ファンダンゴスにより 深く広くタンゴを 感じて欲しかったのだと思います

タンゴは ステージ レコード 演奏 歌 ダンスとさまざまな楽しみ方ができます
しかし ミロンガで踊る人と レコード演奏を聞く人と 演奏家の嗜好は 一致しません
ファンダンゴスは 演奏家として コンサートでは 聴衆が喜ぶステージを
ミロンガでは 踊る人を 操り 煽りながらの演奏を
そして彼ら自身も ミロンガで踊り 歌も歌い ミロンガでのDJもやるという
彼らの食欲同様 一頭の牛を さまざまな部位を さまざまな調理法で食べ尽くすのと同様に
タンゴを 広く 深く 骨の髄までシャブリ尽くし 楽しんでいます
こうしたタンゴの調理方法を 2011年のブエノスアイレスツアーから
自分たちのものとしていきました

私は このツアーのあと
日本に帰った途端 ファンダンゴス疲れから 私は帯状疱疹を患い 入院いたしました
肉体 精神 内臓 に とても過酷な 旅でした

ファンダンゴスはこのツアーで得たものを基として
新たな曲を開拓し タンダ編成 演奏家編成にして
2013年11月の ブエノスアイレスツアーで ぶつけて
自分たちの新たな道に確信を得て CDファンダンゴス5の 製作へと続いていきます
私は このCDファンダンゴス5 を聞くたびに
ブエノスアイレスのファンダンゴスの快進撃を 想いだしています(終)

 

なお、このツアーの詳細を知りたい方は こちらよりどうぞ! http://liliken.club/?p=381

野沢ケンジさん 1(2022/8/25)

「友人たちがこのバンドについて言うことにゃ」のトップバッター・リリアナさんに続くお二人目はやはりその相方、ダンサー・ケンジ&リリアナのケンジ師匠!われわれの転機となった2011年のブエノスアイレスツアーを振り返っての秘話、あれこれを前編後編に分けて掲載します。まずは前編から、どうぞ!

トリオ ロス ファンダンゴスとのお付き合いは 長いです
それについてのことは リリアナさんが  たっぷり書いてくれたので
私は ファンダンゴスが  大きく変化していった キッカケについて
考えてみようと 思います

演奏力と 「レファシ」だけで25分費やす 笑い溢れるステージマネージメントの上手さは初期の頃から すごかった。そして今や  ブエノスアイレスはじめ 世界のミロンゲーロたちを狂わせるミロンガでの生演奏で人気のバンドとなっています
それはいつからか?
2014年4月に発売されたCDファンダンゴス5 から あきらかに曲が違ってきています

2011年12月 私たちと ファンダンゴスは ブエノスアイレスへ行きました
ファンダンゴスにとっては2回目のブエノスアイレス
1回目は 5年前  顔見せ程度の  数回の コンサートでしたが
(はじめてのブエノスアイレス 、コンフェテリア イディアルで演奏が始まった時に  リリアナさんが 涙ぐんでいた)

2011年は チノ&ミホさんが 完璧にコーディネートしてくれ、12日間で 8回の演奏 と 2回のラジオ出演と
ファンダンゴスを ブエノスアイレスのタンゴシーンにたっぷりと印象付ける 予定をたててくれました

1 El Gardel de Medellínミロンガでの演奏  終了後  エレピの脚を忘れたのに気づき
 あたふた あたふたと明け方  タクシーで 1時間かけて取りに行く

2 、3 日系人会忘年会 +日本人会館バザーコンサート
  日系人会で 「ふるさと」を 演奏すると  涙ぐみながらみんなが歌う低い声が印象に残った

4 サロン カニング
  この時はもうファンダンゴスの評判が行き渡り 有名なダンサーたち ミロンゲーロが押し寄せて来てすごい騒ぎだった

1日 3ケ所のミロンガでの演奏
5 ラ カサ デ ビセンテナリオ 
6 ミゲル・ロメロ誕生日ミロンガ
7  コンフェテリア イディアル

8 カンパーナ市長就任 祝演奏
  ブエノスアイレスから100km離れたカンパーナ市  市庁舎前で 夕方からスタンバイ。パーティが終わり  夜遅く  市長 やお客様が 出て来たところから 演奏が始まりました

9 このほかに 谷本さんと遊びに行ったミロンガ カテドラル
 谷本さんがここで演奏したいというので 交渉してブルーノ&シンティアも  巻き込んでの カテドラル ミロンガ

10  サンテルモコロニアルでのマチネーの演奏会
  前日ミロンガで知り合ったギタリスト ミルタ・アルバレスさんやジミー&ユカリンも参加

11  サンテルモコロニアル で 7台のバンドネオン奏者「バンドネオンの夢」と 共演

13、ラジオ レラハード  
14  ラジオ 2x4ブエノスアイレス
1日で2カ所のラジオ出演   2x4ブエノスアイレスでは なんと真夜中1:30の出演

ラジオ局でも演奏したので   結局  12日で14回の演奏

毎回 タクシーでエレピ  アコーディオン バイオリンの楽器 衣装を運び セッティング   撤収
タクシーが故障して  谷本さんが行方不明になったり  夜な夜ないわつさんがいなくなったり
クリスティーナ大統領就任日 前夜 は 就任式セレモニー用に  国会議事堂左右が  柵で分断され  私とケイトさんの乗ったタクシーが  宿へとたどり着けず  途中怖い夜道で降ろされ 午前3時の ブエノスアイレスを走っての逃避行

演奏だけでも こんなにたっぷり忙しいからといって大人しくしていられるファンダンゴスではない
トルカトタッソで パブロ・アグリ四重奏、フリオ・パネ三重奏のライブがあれば行き ビルータに セステートミロンゲーロが出るといえば行き そして 毎晩 ミロンガに行く私とリリアナさんに付き合いミロンガに行く
レコレタや フェリア デマタデーロを観光し 肉を食い  肉を食い ネグラ婆ちゃんの 店で  また肉を食う毎日
日曜日ディフェンサの回廊で  記念写真を撮り

ドレゴ広場からディフェンサ通りは 骨董市と大道芸でたくさんの人だかり
そこの人気大道芸人 カルロス ガルデルのマネをする ルーハンさんの場所を借りて 演奏すると また たくさんの人だかり

あんたら見たよ とか 昨日ラジオ聴いたとか
たくさんの人に声をかけられるほど  やり散らかしたブエノスアイレス

(後編2につづく。近日公開!)

中田リリアナさやかさん 番外編(2022/4/15)

番外

「おっ?反抗期か?反抗期か!そうか、そうでもええ。ええがな、呼ばれたら返事せええええ!」

バイオリン奏者は素敵なダイナマイト妻との間に5人のラブリーな子供がいる。
孫もいる。

南小倉パプテスト教会で日々ひなたの道を探している。

「ちゃーちゃっちゃちゃー
ちゃっちやっちゃー
ちゃんちゃんちゃんちゃんちゃー」
と眠るピアノ奏者の耳元でイントロを歌うと
ガバ!と跳ね起き 
「うーっわさをしんじちゃいっけないっよう」

完璧なアクションで熱唱する。

ピアノ奏者はケイトミュージックという夢の小箱のような場所で微笑む。

なぜ音楽はかくも素敵なのか

コーヒーとぶどうパンのおいしさ

あの場所に今すぐ行きたい。

中田リリアナさやかさん 3(2022/4/14) 

「はじまったねえ」

楽屋の隅、床に置いた座布団に寝かされている女の子が、リハーサルの音出しが聞こえてきたその時、ふっと目を開けてつぶやいた。
熱にうかされた赤い顔が、ホーっと笑った。

お父さんは音響技師、お母さんはアコーディオン奏者。タンゴの節句の時期はキーーーっとなる忙しさ。
女の子と男の子は両親の非常事態に影響されて、トンっと高熱を発する。

会場設営前、リハーサル前、両親は代るがわる子供を病院に運び、ライブ会場楽屋に寝かせる。
寂しがるときはお父さんが二人を前後に抱っこおんぶして、会場設営をし、音響チェックをする。
音響お父さんの兄弟従兄弟がふたりを見守り手助けをしてくれる。

「お父さんとお母さんはこれからお仕事です」

子どもたちの目線に合わせて腰をおろし、お母さんは二人の子供に宣言する。

バーンと演奏を終え、お客様に挨拶をし物販をしサインをし一緒に写真を撮り、ようよう楽屋に帰ってくる。

「おつかれさまー!」
晴々とした笑顔のお母さんの声に、女の子と男の子はお母さんに駆け寄り、ようやく抱きつくのだ。

毎年そんな光景を見てきた。
毎年胸がいっぱいになった。
ふたりとももう両親の背丈を超えるくらいに成長し、素敵な10代だ。

まぶしい
うれしい

中田リリアナさやかさん 2 (2022/4/14)

アストル・ピアソラ作曲『天使のミロンガ』

ピアソラの連作『天使のイントロダクション』『天使の死』『天使の復活』に連なる作品。

ピアソラの楽曲に感銘を受けた劇作家A.R.ムニョスの依頼により、舞台「天使のタンゴ」で使われた。
人々の魂を救済しにこの地に舞い降りた天使が、ブエノスアイレスの場末でナイフで刺殺されるという内容だ。

「天使のミロンガを演奏し、ケンリリさんらが踊るにあたり、見てほしい画像がありますねん」(。)
と谷本さんから言われたのは、2003年。イラク戦争勃発の年だったと思う。

凄惨な出来事があった瓦礫のなか、男性が腰をかがめて立っている。
丈の長いイスラムの衣服に身を包んだ老人の腕の中のか細い子ども。
着ているボロボロの衣服の色彩から女の子とわかる。
砂塵にまみれた白い顔は力なく眼を閉じ、口の周りはまだ鮮やかな色の血で汚れていた。

あんまりだ
とは、思った。
思ったが、眼をそらすことができなかった。
長い時間、瓦礫のなかのふたりを見ていた。
女児は死んでしまったのだろうか。
老人はこの子の家族なのだろうか。
こんなめに遭うことを誰が望むものか。

トリオ・ロス・ファンダンゴスの演奏のなかで踊ることが、祈りにとても似たものになってきたのは、おそらくこの光景を画像で見てからではないだろうか。

現在ミロンガで一番踊らせるタンゴバンド、と大人気のトリオ・ロス・ファンダンゴス。
その根本にはいつも光を求めて両腕を差し伸べる、なにか胸掻きむしられるような焦燥と渇望がある。
そう私は感じる。
いろんなことがあるし
いろんな人がいるけど
あの一点の光
信じる光にいつも顔を向けて
行く道を進むのだ。
と、演奏のなか、彼らの咆哮が聞こえてくるのだ。

だからトリオ・ロス・ファンダンゴスと踊るときは祈る。誰かの安寧、誰かの幸福、救い、寛容、歓びをもとめて。