中田リリアナさやかさん 3(2022/4/14) 

中田リリアナさやかさん 3(2022/4/14) 

「はじまったねえ」

楽屋の隅、床に置いた座布団に寝かされている女の子が、リハーサルの音出しが聞こえてきたその時、ふっと目を開けてつぶやいた。
熱にうかされた赤い顔が、ホーっと笑った。

お父さんは音響技師、お母さんはアコーディオン奏者。タンゴの節句の時期はキーーーっとなる忙しさ。
女の子と男の子は両親の非常事態に影響されて、トンっと高熱を発する。

会場設営前、リハーサル前、両親は代るがわる子供を病院に運び、ライブ会場楽屋に寝かせる。
寂しがるときはお父さんが二人を前後に抱っこおんぶして、会場設営をし、音響チェックをする。
音響お父さんの兄弟従兄弟がふたりを見守り手助けをしてくれる。

「お父さんとお母さんはこれからお仕事です」

子どもたちの目線に合わせて腰をおろし、お母さんは二人の子供に宣言する。

バーンと演奏を終え、お客様に挨拶をし物販をしサインをし一緒に写真を撮り、ようよう楽屋に帰ってくる。

「おつかれさまー!」
晴々とした笑顔のお母さんの声に、女の子と男の子はお母さんに駆け寄り、ようやく抱きつくのだ。

毎年そんな光景を見てきた。
毎年胸がいっぱいになった。
ふたりとももう両親の背丈を超えるくらいに成長し、素敵な10代だ。

まぶしい
うれしい
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